夢で会いたい
それから中島さんは私なんか眼中にない様子でトモ君に話しかけていた。
自分の作品については「はあ」とか「まあ」とかしか答えないけれど、他の人の本については意見の一致が見られたようで、会話としてはとても盛り上がっていた。
なので、私は私で小雪や瀬尾君との会話を楽しんでいた。
瀬尾君ときちんと話すのは初めてだったけど、お互い大人だし気詰まりするようなことはない。
「北村さん、最近は飲み過ぎてないの?」
おっと、前言撤回。
あれを蒸し返すとは嫌なヤローだな。
実は私、瀬尾君が所属する救急隊によって病院に運び込まれるもただの二日酔いだった、という苦い経験がある。
数ある封印したい過去のひとつだ。
「あの時は小雪に付き合ったせいでしたので~。あなたの奥様、酒豪すぎません?」
「かわいいでしょ?」
「健人君!」
「・・・エエ、トッテモカワイイデス」
睨みをきかせたつもりが、瀬尾君は全然私のことを見ていなかった。
「あ、これカニクリームコロッケだ。小雪、好きだよな」
そう言って瀬尾君が小雪のお皿にコロッケを移す。
「いいの?健人君、足りなくならない?」
「どうせ足りないから、あとで何か食べる」
「私も。じゃあ、こっちの西京焼きを半分あげる」
人の気も知らずに仲いいなー。
思えば真幸との食事って基本的にレストランディナーだったから、こうやってシェアするとかなかったな。
あの時はきれいな料理や夜景に心躍ってたはずなのに、何食べたんだか今では全然思い出せない。
きっとこの二人だったら「あの時のお肉おいしかったね」とか「あのワインまた飲みたくて買ってきたよ」なんて会話を後々までするんだろう。
思い出を積み重ねるってそういうことだ。
「いいなあ」
心の声がつい漏れてしまった。
すると、
「はい。どうぞ」
トモ君がカニクリームコロッケを私のお皿に乗せた。
こっちの話なんか聞こえてないと思ってたからびっくりした。
私はカニクリームコロッケが特別好きというわけではないのだけど、あまりにやさしい顔で笑ってるから、断れなかった。
「ありがとう」
「どういたしまして」