強引上司にさらわれました
再びグラスにワインを注ごうとしたところで、課長の手によって阻止された。
「飛ばし過ぎだ」
「このくらい、全然平気ですから」
ワインの一本くらい、なんてことはない。
高級だから、きっと悪酔いもしないだろう。
なんていう変な理屈をつけてみる。
「元木達也に会ったのか」
「……え?」
どうしてそれを……?
「人事部に特別休暇の申請を取り消しに来たんだ」
「……そう、ですか……」
「だから無理やり酔おうとしてるのか」
課長の視線を頬に感じて、いたたまれなくなる。
達也から舞香ちゃんへの気持ちを聞いたことが悲しかったわけじゃない。
もちろんそれもショックではあったけれど、それよりも私以外に気持ちが向いていることにすら気づかずにいた自分が情けないのだ。
入社してから長く友達として付き合ってきて、恋人として二年もそばにいたのに。
結婚の文字に踊らされて、近くが全然見えていなかった。