強引上司にさらわれました
「私が相手じゃドキドキしないのに、舞香ちゃんだとドキドキするんだそうです」
私はズルイ。
自分だって達也にときめくことがなかったくせに、達也ひとりのせいにしてる。
そうやって達也ひとりを悪者にすることで、課長の同情でも買いたかったのか。
新郎に結婚式で逃げられた、悲劇の新婦を演じたかったのか。
頬をひと筋伝った涙の理由は、私にはわからなかった。
課長からワインのボトルを奪い返して、自分のグラスに注ぐ。
「だから、今夜はパーッと酔って全部忘れたいんです。課長もちょっと付き合ってく――」
それは突然のことだった。
課長が私からグラスを取り上げテーブルに置くと、次の瞬間、私の体はその腕の中に抱き込まれていた。
あまりの早業になにが起きたのかわからなかった。
「あの……か……ちょう……?」
強く抱きしめられていて身動きもできない。
ただ、課長の腕の中は心地良くて、それでいて胸が高鳴った。
どんどん加速度をつけていく鼓動。
それは、今まで経験したこともないほどの速さだった。
不意に腕の力が弱められる。