強引上司にさらわれました

◇◇◇

「なんか、課長の様子がおかしくないですか?」


そう言って野沢くんがパソコンの横から顔を覗かせたのは、翌日のことだった。


「さっきも、採用面接のことで聞きにいったら、心ここにあらずって感じにボーっとしてて全然話にならないんですよ。なにがあったんですかねぇ」


口元に手をあててボソボソと言う。

横目で課長を盗み見てみれば、確かにいつもと違って見える。
パソコンのディスプレイを見ているようで、どこか遠くに意識が飛んでいる感じだ。

きっと、なにもかもが私にばれたことが原因だろう。
妹がかわいいばかりに部下をおとしめたことへの罪悪感。
それが課長を苦しめているに違いない。

でも、もっとつらいのは私のほうだ。
ただ振られるだけならまだしも、好きな人にそんな裏切り方をされるとは思ってもみなかった。


「新入社員研修の疲れでも出たんじゃない?」


野沢くんにそう言うと、「麻宮さん、なんか冷たくないっすか?」と妙なツッコミをされてしまった。


「……別に普通でしょ」


そう言い返し、パソコンに視線を戻す。
今朝、出勤してくる途中に考えた身の振り方を定めるべく、“自己申告書”に入力を開始した。

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