強引上司にさらわれました
◇◇◇
いくら格安とはいえ、さすがにホテル住まいも限界がある。
お財布事情もあるし、いい加減なんとかしなくては。
課長との距離を縮められないまま、ズルズルと時間ばかりが過ぎていた日曜日。
意を決して不動産屋を訪れようと、今まさにドアを開けようとしたときだった。
手にしていたスマホが着信を知らせて振動を始めたのだ。
誰だろうかと見てみれば、それは美優からの電話だった。
不動産屋のドアから離れ、歩道の隅に寄る。
「もしもし」
『ちょっと泉、大変大変!』
出るなり美優が声を荒げる。
「どうかしたの? かずくんになにかあった?」
いよいよ研修医の肩書でも取れるんだろうか。
美優の慌てぶりをよそに、呑気にそんなことを考えてみる。
『朝倉課長がシカゴに行っちゃうって!』
「へぇ、朝倉課長がシカゴに――って、え!?」
『今夜の飛行機で発つって! グローバル部の人からたった今聞いたの!』