強引上司にさらわれました

なになになに。
なんでそんなことになるの?
だって、課長は本社のグローバル部の次期部長のはず。
それにまだ所属は人事部だ。

正確には明日付でグローバル部へ異動。
確かにシカゴに事業所はあるけれど、どうしてそうなるの?
全然意味がわからない。


「出張じゃないの?」

『行ったら、一年は戻らないって』

「えっ……一年も……?」


スマホを持ったまま動けなくなった。

……そうしたら、課長とはこのまま会えなくなっちゃうの?
“ごめんなさい”も言えないまま?


『今ならまだ飛行機に間に合うから』

「間に合うって……空港に行くってこと?」

『当たり前じゃない。今行かなかったら、もう本当にこのままになっちゃうよ? 泉はそれでいいの?』


美優が諭すように優しく言う。
今、行かなかったら、言えずにずっとためた言葉を一年も抱えることになる。
想いは行き場をなくしたままに。

今だって胸が詰まって、こんなに苦しいのに。


『泉? 聞いてる?』

「……うん。私、行ってくる」


力強く答える。


『そうこなくちゃ! 飛行機の便とか時間はLINEですぐに送るから。がんばって行っておいで』


頼もしい美優の声援を受け、空港へ向けて駆け出した。

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