授かり婚~月満チテ、恋ニナル~
通路を突き進んで奥に向かい、トイレに寄ってから、座敷には戻らずにお店の外に出た。


大通りを離れた路地裏とはいえ、繁華街の広い道路。
辺りには同じような居酒屋が軒を連ねていて、通りにたむろしているのはほとんどがスーツのサラリーマンやOLさんだ。
これからお店に入るのか、ドアの前で数人で群れていたり、誰かの送別会帰りなのか、主役を囲い込んで人だかりが出来ていたり……。


そんな様子を横目にしながら、私はお店の前を通り過ぎ、更に一本奥まった裏手の狭い通りに逸れてみる。


「あ」


そこに、来栖さんがいた。


思わず声を出して、その場で足を止めた。
私に気付いた来栖さんが、建物の壁に背を預けたまま、こっちにチラッと横目を向けてくる。


「あ。……あー、佐倉か。ビックリした」


言葉ほど驚いた様子はなく、来栖さんはぎこちなく笑った。


彼は右手の指にタバコを挟み左手に携帯灰皿を持って、紫煙を燻らせていた。
思わずその指先を見つめる私の視線に、来栖さんは指に挟んだタバコを軽く持ち上げた。


「……見られちゃった」

「知りませんでした……。来栖さん、タバコ吸うんですね」


ただ、心に浮かんだままの感想を口にする私の前で、彼は黙ってタバコを唇に咥え、ふうっと白い煙を吐き出した。
薄暗い狭い通りで、その白い煙が闇に溶け込んで消え入っていく。
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