授かり婚~月満チテ、恋ニナル~
「……いつも吸うわけじゃないんだ。ムシャクシャしたり、気分が滅入ったりしてる時だけね、……ちょっと」


そう言って、まだ長いタバコを携帯灰皿の中で押し潰す。


「あ」


思わず声を上げた私に、来栖さんは小さく首を傾げた。
サラッとした前髪揺れ、その奥の切れ長の目が細められるのが覗いて見えた。


「ごめん。煙、嫌だろ?」

「い、いえ。大丈夫です。あの……気にしないで吸ってください」

「え?」


そう言いながら一歩踏み出した私に、来栖さんは不思議そうに短い言葉で訊ね返してきた。


「あっ……い、いえ。勝手にお邪魔したのは私だし。……気が滅入ってるんでしょう……? だったら、遠慮なく……」


慌ててそう続けながら、私は一度俯いた。
そして、躊躇いながらもう一歩先に足を踏み出して来栖さんの隣に並び、人一人分の間隔を空けて建物の壁に寄りかかる。


私の行動をジッと見ていた来栖さんが、俯いてクスッと小さく笑った。


「……もしかして、聞こえてた?」


横からちょっと探るように問われ、私はギクリと肩を震わせた。


「俺たちのテーブルの会話。……俺が彼女に振られた話」


黙っている私を更に探るように繰り返して、来栖さんが私の顔をそっと覗き込んでいるのがわかる。
その視線にドキドキしながら、私は一度ギュッと唇を噛み締めた。
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