授かり婚~月満チテ、恋ニナル~
そして……。


「あの、私……明日までにはちゃんと全部忘れるって約束します。だから……泣いていいですよ」


来栖さんの正面に立ち、そっと彼を見上げながらそう呟くと、一瞬その身体がビクッと震えた。


「……え……?」


返ってくるのは、掠れた小さな声。
私はぎこちなく微笑みながら、ギュッと唇を引き結んだ。


「辛い時は我慢しないでいいんです。それが自分の我儘でも、誰かの為でも……辛い気持ちに変わりはないんですから。でも、明日はいつもみたいに笑ってください。私、来栖さんの明るい笑顔、大好きです。いつもいつも……見てると元気がもらえるんです」

「佐倉……」

「でも、いつも明るく前向きでなんていられないですよね。だから、来栖さん。今は感情に素直になっていいですよ」


そう言って、一生懸命笑いかけた私を……。


「っ、佐倉……」


信じられないけど。
息が止まるかと思ったけど。


来栖さんは、肩を掴んで引き寄せると、強く強く掻き抱いた。
まるで、なにかから奪い去られるような錯覚に陥るくらい、強く、情熱的に。


「……じゃあ、泣かせて」


私の耳元で、そんな囁きを落とす。


「……佐倉以外の誰にも見られないところで」


ドクン……と、胸が大きく鼓動を打ち鳴らせた。


だって、それが――。
そういう誘いだと気付かないほど、私は子供じゃなかったから。
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