オオカミ専務との秘めごと


翌朝、目覚まし時計のアラームを止めた私は、ノロノロと起き上がった。

ぼーっとしていても、頭の中が悩みでぐちゃぐちゃになっていても、時間は普通に流れていくのだ。

なんだかあんまり眠った気がしない。

こんなふうに眠れないほど頭を悩ませるのは、両親が亡くなった時以来かな。

今までは生きていくのに一生懸命で、それどころじゃなかったから。


「会社に行かなくちゃ・・・」


お弁当を作って支度をし、自転車で駅に向かう。

いつもかっ飛ばしているのであまり周りを見ていなかったが、今日は景色を見ながらゆっくり自転車をこぐ。

いつのまにか公園の桜の花が満開で見頃になっていて、駅前通りの並木も見事な桜色に染まっていた。

もう厚手のコートを着ている人はいなくて、電車の中も明るいパステル色の服が目立つ。

会社にはそろそろ新入社員が入ってくる頃で、一課にはどんな子が配属されるのか毎年の楽しみの一つだ。


朝一、営業部のみんなのデスクを拭いていて、ある変化に気が付いた。

それは竹下さんのデスク。

毎日せっせと築かれていた書類山がなくなっていて、すごくすっきりしているのだ。

先週末に拭いたときには、五センチほどの山があったはずなのに。

トレイの上には納品書がこんもり乗っているけれど、それでもすごい進歩だと思う。

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