オオカミ専務との秘めごと


「そうかー、塩ちゃんには春が来るんだ」

「やだ、佐奈さん。まだ、そうなると決まってないですよ」


塩田さんは否定しながらも嬉しそうで、幸せオーラが頭の上から爪先まで満ちている。

この恋はきっとうまくいくんだろうなと、根拠のない確信が持てるほどだ。

同じ会社にいながらも、ついこの間までお互いを知らなかったふたりが急接近するなんて、きっかけとか縁はいつどこに転がってるか分からないものだ。


「でも佐奈さんも、お相手がいるじゃないですか。社内一のモテ男、長谷部さんが」

「やだ塩ちゃん、冗談でしょ。あんなチャラ男が。続かないよ」


佐奈は渋い顔をしながらも、少し顔が赤くなっている。

どうやら、まんざらでもないみたい。


『三倉。俺、変わるから。絶対惚れてもらうから』


長谷部さんと居酒屋で会ったあの翌日に、なんと彼は、この社員食堂で佐奈にそう宣言したのだ。

私も塩田さんも同席していて、長谷部さんの真剣な眼差しを見て、他人事ながらもすごくドキドキしてしまった。

大きな声ではなかったけれど、そのことは長谷部ファンの耳に入り、彼に声をかける女性が少なくなった。

おかげで、彼から少しずつチャラさが消えていっている。


そしてここでは、専務のことも噂にのぼることがある。

「恋人は綺麗な人らしい」とか「既に婚約者がいる」とか。


今まさに、斜め隣にいるグループがそんな話をしているところだ。

彼は素敵で目立つから、やっぱりみんな気になるんだろうな・・・。


「あ。菜緒、時間なくなるよ。もう戻ろう」

「あ、待って」


佐奈に促され、急いでお弁当箱を片付けて食堂を出た。


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