オオカミ専務との秘めごと
「そう。実は今、社内でヨーロッパ支部に送る優秀な人材を探しているんだ」
「・・ヨーロッパ、ですか」
驚きを隠せない私にもよくわかるよう、部長は丁寧に説明を始めた。
今までの海外事業は、八割方がアメリカ市場で二割がヨーロッパだった。
だが、大神専務がここに赴任して来る前にドイツで市場開拓をして規模を大きくしてきた。
開拓されたのはドイツだが、そこを足掛かりに今後はフランス方面にも力を入れ始める計画だ。
ドイツにはすでに現地スタッフがいて業務をスタートさせているが、日本人も置きたい。
どうせならフランス語ができる人を向こうに送りたいと話す。
「楢崎君に訊けば、神崎さんは仕事もできる優秀な社員だと言うし、適任だと思うんだ。だが、女性だからまず意向を聞こうと思ってね。どうだ?」
「あ、急に言われましても、すぐにお返事ができません」
そんなお話が来るとは夢にも思わず、ただ戸惑うばかりだ。
それでも真っ先に思い浮かぶのは、雄太のこと。
私が海外に行ってしまったら、仕送りはどうすればいいんだろう。
それに、大神専務の顔も思い浮かぶ。
レンタルのお仕事ができなくなってしまう。
私には事が大きすぎて、一人では答えが出せない。
「あの、行くのは私一人なんですか?」
「いや、もう一人、二課の長谷部君にも打診するつもりだよ。彼もフランス語ができるし、何より社交的だからな。適任だろう」