妻に、母に、そして家族になる
「信濃さんは最低なお父さんではありませんよ。だって、警察署で信濃さんを見つけたときのハルくん、本当に安心した様子でした。アナタが大切にしていなければ、あんな顔はしません。

だから父親である自信をもってください。過去はどうであれ、今は立派なお父さんです」

少しでも彼の傷を癒したい。

元気にしてあげたい。

これはただの自己満足かもしれないけど。

ちょっとでも助けになれたら嬉しい。

すると最初は驚いた表情をしていた信濃さんだけど、「まいったな……」と呟くと顔を隠してしまう。

僅かな隙間から見えた顔は、困ったような、でも嬉しそうな赤らんだ顔が覗いていた。

「あの。これ、ハルくんに返しておいてくれませんか」

ハンドバックからハルくんから借りていたハンカチを取り出す。

渡すタイミングが無くて今になってしまった。

「ああ、はい」

「お願いします。それじゃ、今日はご馳走様でした」

今度こそ外に出ようとドアノブに手を掛けたとき

「橘さん」

呼び止められてドアに触れていた手を離す。
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