クールな御曹司と溺愛マリアージュ
事務作業をしてて気づいたんだ。これまで取ってきたクライアントは、ワームの顧客だったわけじゃない。

ワームの顧客をあたれば次々と仕事が入ってきたかもしれないのに、佐伯さんも拓海さんも必死に営業をかけて自分の足で、自分の力で取ってきたものだから。


このレストランだって、佐伯さんが努力してきた自分の人脈を生かして取った仕事なんだ。

情けないなんて、そんなこと思ってほしくない。


「佐伯さんの頑張りがなければ、ワームデザインという素晴らしい会社は生まれなかった。
ワームという名前が入っていようがいまいが、私達はお客様に最高の満足を届けたいという佐伯さんの信念のもとに、働いているんです」


「柚原……」


「少なくとも私は、この会社が好きです」


勇気を出して面接を受けてなかったら、佐伯さんと出会ってなかったら、佐伯さんがこんな私を採用してくれてなかったら……。

私は今も昔の思い出に縛られて、下を向いたままだった。



「柚原お前……単純だな」


「ちょっと!なんですかそれ!」

不満げに口を尖らせている私を見て、佐伯さんはフッと微笑んだ。


「面白いな」

「えっ?」


「楽しいよ……お前といると」


そっ、それは、どういう意味ですか?なんて聞けない。

顔の筋肉が全て緩んでしまうのを必死に堪えることしかできないけれど、その何気ないひと言だけで、私の心はいとも簡単に踊りだす。

佐伯さんの言う通り、本当に単純だ。


「柚原、茹でダゴみたいな顔してるぞ」

「もう!そのひと言は余計です!」


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