クールな御曹司と溺愛マリアージュ
私のカップが空になったのを確認した佐伯さんは、荷物を手に持った。

「そろそろ行くぞ」

「はい、じゃーここは私が払います」

美容院代も払ってもらったんだから、ここは絶対譲れない。


「そのやり取りはもう飽きた」

そう言ってさっさとレジに向かってしまった佐伯さん。

引き止めようとしたけれど、店の中ということもあってひとまず素直に従うことにした。


「ありがとうございました。では、宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願い致します。またご連絡いたしますので。ご馳走様でした」

丁寧に挨拶をしている佐伯さんのうしろで、私は深く頭を下げた。



店を出ると、モワッとした空気が一気に体を包み込む。

分かってはいても、自然と「暑い」という言葉を口にしたくなる。


「さぁ、もう私は引きませんよ!」

「は?なにがだ」

「お金です!もう街中で恥ずかしいとか、そんなの関係ありません。おいくらでしたか?」

鞄から財布を取り出すと、溜め息をついて視線を逸らす佐伯さん。


「今は勤務中です。プライベートでもなんでもないんですから、佐伯さんに支払ってもらう必要はありません」


こういう所が可愛くないって、自分でも分かってる。

河地さんと付き合っていた時も、極力おごってもらうことを避けてきた。

私からしてみたら、嫌われないようにと気を遣っていただけなんだけど、そういう態度がきっと男の人のプライドを傷つけていたんだろう。

『気持よくおごらせてくれた方が、女の子は可愛いのに』

なんてことを、河地さんから言われたんだっけ。


佐伯さんもそろそろ呆れている頃かもしれないな。



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