クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「分かった、それなら……」

「えっ?」


「明日、仕事が終わったら……柚原が俺に食事を奢れ」

佐伯さんは、そう言って財布を持っている私の手を押し戻した。


「今、なんて?」

本当は聞こえていたけれど、もう一度確認したくてそう聞き返した。


「二度は言わない。その頑固さはなにを言っても無駄みたいだからな。それでいいだろ」

「はい!分かりました!任せて下さい」


仕事が終わったら、ということは……今度こそ本当に二人きりで、仕事とは関係なく佐伯さんとプライベートの時間を一緒に過ごせる。


「会社戻るぞ」


佐伯さんのうしろを歩く私は心が躍るどころか、今にもスキップをしてしまいそうなくらい嬉しさに満ち溢れていた。




駅までの道のりは、益々人の数が増えているようだった。
それに、なんだか人の視線がやけに気になる。

さっきまで嬉しさで緩んでいたはずの顔が、急に強張り始める。


最初は佐伯さんを見ているのかと思っていたけど、すれ違う人が時々こちらを見て笑っているように見えるし、この服もこの髪型も、やっぱり私……。


そう思った時、前を歩いていた佐伯さんが立ち止まり、スッと私の右手を握った。


「あっ……え?」

「柚原は隙があり過ぎる。キョロキョロしてないでさっさと歩け」

「あの、ちょっと……」

佐伯さんは私の手を握ったまま、歩き出した。


さっきまでと同じ道なのに、なぜか分からないけど佐伯さんと手を繋いでいるだけで、心がとても落ち着いてくる。

有り得ないほどドキドキしているけど、ずっと握っていたい。そう思うくらい温かい手。



「あのカップルちょー素敵」

いや、そんな風に思われたら佐伯さんに申し訳ない。

すれ違う人の声が耳に入ってきて咄嗟に手を離そうとしたけれど、佐伯さんの手はそれを許してくれなかった。


さっきよりも強く握ったまま、全く表情を変えずに歩く佐伯さん。



佐伯さんの、心の中が知りたい。

でも知らない方が、このままただ佐伯さんを好きでいるだけの方が、幸せなのかな……。


というか、外に出たら気持ちを切り替えろと言ったのは佐伯さんなのに、こんなんじゃ……絶対に無理です。









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