クールな御曹司と溺愛マリアージュ

 
 *

嫌だ……絶対嫌だ!
なんとしても、今日は会社に行く……。

歩き出したその足は、休むことなく地面がグラグラと揺れているかのようにふらつく。

体中が熱を帯びていて、頭は石のように重い。


顔……洗わなきゃ。その前に、とりあえず着替え……。

着替えをしようとクローゼットを開け、必死に手を伸ばす。

はぁはぁと息が上がってしまうけど、今日は絶対に会社を休むわけにはいかない。


着替え、の前に体温計か。いや、やめたほうがいいかも。現実を見てしまったらもっと具合悪くなる気がするし。


ベッドの横にある置き時計は、既に出社時間を過ぎていた。

精一杯動いてるつもりなのに、全然体が言うことを聞かない。

とりあえず電話……。


狭いワンルームの部屋を這うように動いていると、スマホが鳴った。

鳴り続けるスマホはベッドの上にあるけれど、一メートルの距離がとても遠い。


やっとの思いで手を伸ばし、スマホを手に取った。


「は……はい……」

『なんすかその声、玉手箱でも開けたんですか?』

「成瀬……君?」


『恵梨さんが遅刻なんて初めてだから、佐伯さんが電話しろってうるさくて。もしかして、っていうかもしかしなくてもその声は風邪ですよね』

「そうみたいなんだけど、でも……私、行くから……」

『は?なに言ってんですか、そんな声して。今日はや……』


「行くから、だって……」

『熱があるなら黙って寝てろ』


……この声って、佐伯さんだ。





< 104 / 159 >

この作品をシェア

pagetop