クールな御曹司と溺愛マリアージュ
*
嫌だ……絶対嫌だ!
なんとしても、今日は会社に行く……。
歩き出したその足は、休むことなく地面がグラグラと揺れているかのようにふらつく。
体中が熱を帯びていて、頭は石のように重い。
顔……洗わなきゃ。その前に、とりあえず着替え……。
着替えをしようとクローゼットを開け、必死に手を伸ばす。
はぁはぁと息が上がってしまうけど、今日は絶対に会社を休むわけにはいかない。
着替え、の前に体温計か。いや、やめたほうがいいかも。現実を見てしまったらもっと具合悪くなる気がするし。
ベッドの横にある置き時計は、既に出社時間を過ぎていた。
精一杯動いてるつもりなのに、全然体が言うことを聞かない。
とりあえず電話……。
狭いワンルームの部屋を這うように動いていると、スマホが鳴った。
鳴り続けるスマホはベッドの上にあるけれど、一メートルの距離がとても遠い。
やっとの思いで手を伸ばし、スマホを手に取った。
「は……はい……」
『なんすかその声、玉手箱でも開けたんですか?』
「成瀬……君?」
『恵梨さんが遅刻なんて初めてだから、佐伯さんが電話しろってうるさくて。もしかして、っていうかもしかしなくてもその声は風邪ですよね』
「そうみたいなんだけど、でも……私、行くから……」
『は?なに言ってんですか、そんな声して。今日はや……』
「行くから、だって……」
『熱があるなら黙って寝てろ』
……この声って、佐伯さんだ。