クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「あの、お茶くらいは出せます」

「いいからとりあえず熱測って俺に見せろ」

「分かりました……」


鞄を置いてジャケットを脱いだ佐伯さんは、ベッドに横になって熱を測っている私をずっと見下ろしている。

せめて何か言ってほしいけど、ずっと無言で見られてると熱が余計に上がってしまう。


ーーピピッ


「何度だ?」

「えっと、三十八、七度……です。あのそんなことより、今日はどうしてここに?私なにかやっちゃいましたか?」

「は?なに言ってんだ。心配だから来たに決まってるだろ」

あたり前のようにそう言って、持って来た袋から何かを取り出している佐伯さん。


心配だからって、佐伯さんが私を心配してわざわざ?


「今日は何か食べたのか?」

「いえ、食欲なかったので」

ヨーグルトでもあればと思ったけど、こういう時に限って冷蔵庫にはなにも入ってなかった。

動くのもしんどかったから、もうお昼を過ぎたけど朝から何も食べていない。


「キッチン借りるぞ」

「え?はい、いいですけど……」


この状況はいったいなんなんだろう。現実味がなさすぎて、熱のせいで幻覚でも見ているんだろうか。
今日の佐伯さんはよくしゃべる気がするし……。


体を横に向けていると、キッチンに立っている佐伯さんの背中がよく見える。

部屋とワイシャツとキッチン……、なんてそんな曲なかったっけ……。


ボーっとしながらその白い背中を眺めていると、急に振り返った佐伯さんにドキッと胸が鳴った。


「とりあえず、これ飲んでおけ」

そう言って私の体を起こし、マグカップを渡された。

「これは?」

「柚原はいつも紅茶ばかり飲んでいるようだから、俺のお薦めの紅茶に生姜とハチミツを入れた」


私が紅茶を好きだって、気付いてくれてたんだ。

そんな些細なことだけで、嬉しくて泣きそうになってしまう。




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