クールな御曹司と溺愛マリアージュ
佐伯さんが作ってくれた紅茶をひと口飲むと、体の奥から温まっていくような気がした。

「今なにか作るから、ちょっと待ってろ」

「なにかって、佐伯さんにそんなことさせられません」

「食べないと体力はどんどん消耗されていくだけだ。食欲がなくても少し食べろ」

「だって、こんなことしている間にも時間は過ぎてしまうわけだし」


キッチンに戻った佐伯さんは再びベッドの横に立ち、その手を私の額に優しく当てた。


「熱いな。氷枕を一応買ってきたから、これを枕の上に」

「あの、聞いてますか?忙しいのに私のために無駄な時間を使ってほしくないし、移ったらそれこそ……」

「あれは嘘だ」


「……嘘?」


私の頭を持ち上げて、氷枕を置きながら佐伯さんが頷いた。


「長く考えたからといって良い物が出来るとは限らない」

「だって、今朝の電話では……」

「頑固な柚原にはそう言うしかないだろ。大丈夫だ、誰かさんと違って体調管理はしっかりしている。このくらいじゃ移らない」


どうしよう……全然頭が回らない。

佐伯さんがなにを考えているのかいつも以上に分からないけど、でも……その優しさだけは、伝わってくる。


こんなことをしてくれる人だなんて、思いもしなかった。

本当は優しいっていうことは知ってるけど、でも……。


「余計なこと考えないで、大人しく寝てろよ」


まるで戸惑う様子もなく、慣れた手つきで何かを作っている佐伯さん。


私、益々佐伯さんが分からないです。

ただの事務員一人の為に、どうしてここまでしてくれるのか。

そんな風に優しくされればされるほど、どんどん私の気持が大きくなってしまいます。


佐伯さんの背中に向かって、そう心の中で呟いた。


もしも同じ会社じゃなかったら、きっと私は気持ちを伝えていたと思う。

でも同じ会社じゃなかったら、こんな不思議な光景を見ることさえ出来なかったんだ。




< 108 / 159 >

この作品をシェア

pagetop