クールな御曹司と溺愛マリアージュ


「できたぞ。起きれるか?」

手に持っていたお皿をテーブルに乗せ、私の背中を支えて起こしてくれた佐伯さん。


「本当にすみません。私なんかのために貴重な時間を使わせてしま……」
「うるさい。いいから食べろ」


スプーンを取ろうと手を伸ばすと、横から伸びてきた佐伯さんの手にそれを奪われてしまった。


「あの……」


無表情のままの佐伯さんはお皿の中のおかゆをすくい、それを私の顔の前に差し出す。

えっと、これは……。

戸惑いながらおかゆと佐伯さんを何度も見つめる。


「食べろ」

「い……頂きます」


子供の頃にお母さんからやってもらったことがあるのだろうけど、男の人に食べさせてもらうなんて人生初だ。


しかも相手は大好きな佐伯さん。熱が上がるどころか、今度は心臓が止まってしまうんじゃないかと思う程、ドキドキと私の心を揺さぶった。

嬉しいとかそういうことを飛び越えて、泣いちゃうよ……。


なんとか我慢しようと、眉間にしわを寄せて俯いた。


「どうした、口に合わないか?」

ブンブンと首を横に振った私は、こみ上げてくる涙を抑えるように深呼吸をし、佐伯さんを見つめる。


「いえ、凄く美味しいです。今まで食べたおかゆの中でも、最高に美味しいです。星五つです」

佐伯さんは一瞬だけホッとしたように顔をほころばせ、すぐにいつもの真顔に切り替わった。


「お前に五つ星をもらっても嬉しくない」

こんな時も相変わらずな佐伯さんだけど、私にとっては本当に、世界でたった一つの最高のおかゆです。


「それ食べて薬飲んで、しっかり寝ろよ」

そう言って立ち上がった佐伯さん。もう戻るのかな?



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