クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「失礼します」
会議開始の五分前になると、ぞろぞろと社員が入ってきた。
誰かが入ってくる度に不安でドクドクと心臓が鳴り、来るな来るなと心の中で唱えるけれど……。
「お疲れさまです」
うしろにあるドアから聞こえた声に、ビクッと体が反応した。
聞き覚えのある声、だけどもう二年以上も聞いていないのだから、間違いだという可能性だってある。
「はいお疲れさま。じゃー始めようか」
最後に社長が入ってくると、全員が立ち上がってお辞儀をした。
私は顔を隠すように俯き、席に座る。
会議が始まりメモを取る為のボールペンを握ったまま、私は他の人を見ないようにと前に立った企画部部長の顔をひたすら見つめた。
「……ということで、品川にある〇〇ホテルのチャペルをデザインするというのが今回のコンペの企画です」
チャペルか……。佐伯さんや拓海さん、成瀬君ならどんなデザインを考えるんだろう。
「ワームデザインさんは勿論のこと、ワームからもデザインを出品することになったので、今回合同で会議という形になりました」
隣にいる佐伯さんは資料を眺めながら話を聞いていて、その横顔は相変わらず綺麗だ。
もう頭の中では既になにか浮かんでいるんだろうか。
「三十六階という場所も、デザインする上で重要になってくるでしょう」
部長からの説明が約四十分続き、その後ようやくワームの社長が口を開いた。
今まではフランクでオヤジギャグが好きな社長くらいにしか思っていなかったけど、佐伯さんのお父さんだと思うと見方が少し変わってしまう。
佐伯さんは今、どんな気持ちで話を聞いているんだろう。
「初めての空間デザインのコンペになるけど、ワームかワームデザインどちらかが選ばれると私は信じてるぞ。まぁ、出来ればワームに取ってもらいたいが」
ガハハハと大きな口を開けて笑った社長。
いや、笑えませんが……。あなたの息子はワームデザインですよ。
そう心の中で突っ込んで佐伯さんをチラッと見ると、すこしも動揺した様子はなく、表情は最初からずっと変わらない。
さすが佐伯さん。その強い心臓を少し分けてもらいたい気分です。
未だに周りは見られないけど、もしかしたらこの中に……と思うだけで動揺しまくりの私とは正反対だ。