クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「それにしても、恵梨の雰囲気が全然違うから最初は分からなかったよ」

上から下まで私を見て、ニコッと微笑む河地さん。

何か言われるかもしれない……。そう思った瞬間、私は河地さんから視線を逸らした。



「すごい……綺麗になったね」


「えっ……?」


「服装も髪型も全然別人みたいで、綺麗だよ」


会社の廊下で何を言い出すんだと思ったけれど、河地さんは真剣な眼差しで私を見つめた。



「付き合ってた頃はさ、ほら、ちょっとアレだったけど。今の恵梨なら色んなところに連れて行ってあげたくなる」


私は掌をギュッと握りしめ、河地さんを見つめた。


私が少しずつ変われたのは……あたなの為じゃない。


厳しいけれどその中には優しさもあって、私に前を向く為の手助けをしてくれた人。

彼がいたから。彼の厳しさと、さりげない優しさに触れられたから、私は今前を向けているの。



「俺が最高のデザインを考えて、コンペは必ずうちが勝つ。そしたらさ、改めて食事でもしない?」


河地さんの言葉は、なにも響かない。

私が側にいたい人は、私が好きなのは……。





「困るな……」


「えっ!?」


その声が聞えた途端、私の肩に手を回し、そのままうしろへ引き寄せられた。


私の肩を抱いたその人を見上げると、怒っているかのように眉を潜めたまま私に一瞬視線を移す。



「佐伯さん……?」



「うちの社員に手を出されるのは困りますよ」


あくまでも冷静な口調で、息を吐くかのように河地さんに向けられた言葉。

だけど佐伯さんに引き寄せられた私の体は、緊張で固まってしまっている。



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