クールな御曹司と溺愛マリアージュ
涙を隠すように視線を落としたままワームを出ると、私の肩にあった佐伯さんの手がパッと離された。
私は涙を拭い、佐伯さんを見上げる。
「佐伯さん、ありが……」
「馬鹿かお前は!」
え!?ちょっと、なんで?
ありがとうございます、そう言おうとしたけれど、佐伯さんの声に掻き消されてしまった。
「なっ……なんですか突然」
「これだからお前は、隙があり過ぎると前にも言っただろ」
「意味が分かりません!なんで怒られなきゃいけないんですか?」
あれは河地さんが勝手に言ってきたことだし、なにも佐伯さんに怒られるようなことはしていない。
「忙しいんだから、さっさと会社に戻るぞ」
スタスタと歩き出した佐伯さんのうしろを、私は頬を膨らませながら付いて行った。
なんでよ。お礼を言いたかったのに。
私のことを最初から綺麗だって言ってくれた言葉が、とても嬉しかったのに。
でもそういうところが、やっぱり佐伯さんだ。
少しだけムカついたけど、それでもその背中に付いて行きたいって思う。
怒られたり冷たい態度を取られても、その中にある優しさを知っているから。
私はやっぱり、佐伯さんが大好きです……。
「ところで拓海さんと成瀬君はどうしたんですか?」
「とっくに帰った。言っとくが、これからはコンペもあるし、今までの非じゃないくらい忙しくなるからな」
「覚悟してます……」