クールな御曹司と溺愛マリアージュ
二回目に会った時は、正直最悪だった。

自分のコンプレックスを露わにされて悔しくて。

でもそんな私を採用してくれて、心の中にあった暗い気持ちを救ってくれたのも佐伯さんだった。


その日から、俯いてばかりいた私がだんだんと前を向けるようになっていって、素敵な服を着るのも髪型を変えるのも、怖くなくなった。


無表情でただの冷たい人だと思っていたけれど、全然そんなことなかった。

時々ボソッと優しいことを言ってくれたり笑ってくれたり、天然なのかと思ったら、ドキッとする言葉を突然言ったり。

予想出来ない佐伯さんの隠れた部分が見えるたび、嬉しかったんだ。



「綺麗ですね」

「うん、綺麗だ。この景色を見ているだけで、新しいデザインが浮かんでくる」


こんな時でも、佐伯さんの頭の中は仕事でいっぱいなんですね。

でも私は、そんな佐伯さんを好きになった。


厳しくて真面目で一生懸命で、仕事でデザインを盗まれるという失敗をしてしまった私に向かって、『そんな顏するな』って微笑んでくれた人。


あなたが笑ってくれたから、私は……。

あの時感じた気持は、思い出しただけで今でも泣けてきてしまう。


仕事にやりがいを感じられるようになったのも、佐伯さんのおかげ。

みんなのために、会社のために頑張る佐伯さんの背中をずっと見ていたから。




どれくらい経ったのか分からないけれど、佐伯さんがふと時計を確認した。

「少し疲れたな」

「そうですね。さっきよりも混んできたみたいだし」

「帰るか」

「えっ……?」

帰るって、約束はまだ果たしていないけど。


「行くぞ」

「はい……」

デザインも仕上がったし、疲れが出たのかもしれない。
佐伯さんを引き留めることはできないし、素直に従おう。

けれど歩き出した佐伯さんは、駅とは違う方向に向かっている。



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