クールな御曹司と溺愛マリアージュ
二階にある総務部から一階に降りると、受付で話をしている背の高い男性の姿が見えた。
あの横顔は……。


「あっ!」


思わず出てしまった声に気付き私の方を見たその人は、面接の時にいた伊勢谷さんだった。


「柚原さん。丁度良かった」

「お、お疲れさまです」

「あれ?今日は眼鏡なんだね」

「はい、ちょっと……」


面接の時は余裕がなくて分からなかったけど、伊勢谷さんもかなりの男前だという事実に今気づいた。

背が高くて少し癖のある黒髪に、ハーフかと思うほど整った顏をしている。

けれどこうして面と向かっても伊勢谷さんだとドキドキはしない。
いや、それじゃ佐伯社長だとドキドキするみたいじゃん。違う違う、別にあの人にそんな感情はない。



「今から行くんでしょ?」

「はい。お世話になります」

「渉が遅いから迷ってるかもしれないし迎えに行けってうるさいから。少し分かりにくいし、一緒に行こう」

「え?あ、はい」


渉?渉って、佐伯社長のことだよね。伊勢谷さんはワームの社員だったわけじゃないし、佐伯社長とはどういう関係なんだろう。

ていうか迷ってるかもしれないって、それはつまり社長が私を心配してくれてるということ?まさか、あんなに無表情で酷いことを言う人が、私を心配?ないない。



初夏の日差しが一段と眩しく降り注ぐ中、ワームを出た私達は、大通りを駅とは反対方向に進んだ。


「十分くらいだから近いよ」

そう言ってニコッと微笑む伊勢谷さん。そう言えば、社長って笑う事あるのかな?想像できない。


「あの、少し聞きたいことがあるんですが」

「いいよ、なに?」

社長と違って伊勢谷さんはとても話しやすい雰囲気の人だ。とりあえず一番聞きたかったことを聞いてみよう。



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