クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「……どうして、私が受かったんでしょうか?」


すると伊勢谷さんは急に立ち止まり、右手を自分の額に当てて溜め息をついた。


「やっぱ何も言ってなかったか。今朝、渉になんて言われた?」

「えーっと、〝十三時までに引き継ぎ終わらせて、その後すぐに会社に来るように〟です」

「やっぱり、ごめんね。あいつ仕事モードの時は余計な会話はしないんだ。ただでさえ愛想悪いのに、それじゃ柚原さんだって戸惑うよね」


社長を〝あいつ〟呼ばわりしたことも気になるけれど、とりあえず伊勢谷さんの言葉に頷いた。


「柚原さんに決めた理由はあいつにしか分からないけど、俺は柚原さんの面接の最中に〝この子に決めたんだ〟ってすぐに分かったよ」

「どうしてですか?」

むしろ絶対落ちたと自分の中では確信していた。あの面接で自分が受かるなんて微塵も思っていなかったから。


「柚原さんの時だけだったんだ」

「えっ?」

「面接の時にあいつが、社長が喋ったのは。昔からそうなんだけど、自分が興味ないと全く喋らないんだ。だけど唯一柚原さんの時だけ、あいつは身を乗り出して喋ってたでしょ?まぁ言ってる事は酷かったけど」


それはつまり、私に興味を示してくれたということなんだろうか。でもどうして。


「だから俺はあいつが喋りだした途端、合格者が分かって思わず笑っちゃったってわけ。ごめんね、あんな失礼なこと言って。でも不器用なだけで悪気はないんだ。他の人の面接の時なんて、無言の威圧感に堪えられなくて泣き出す子もいたんだから」

泣き出す……、初見さんのことだ。


「いえ、社長のおっしゃってたことは間違ってないので」

「でも本当の真意は分からないからさ、今度直接聞いてみなよ」


直接?無理無理無理。社長に直接聞くなんて怖くてできない。

思い切り首を振る私の本音が伝わってしまったのか、伊勢谷さんがプッと吹き出した。


「思ったことをハッキリ口にするけど、悪い奴じゃないから。柚原さんもこれから一緒に仕事をしていけば分かると思うよ」

そう言って再び歩き出した。




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