クールな御曹司と溺愛マリアージュ
どうしよう。面接の待ち時間の比じゃないくらい緊張する。


ーーカチャッ


ドアを開けて先に入るよう伊勢谷さんに促され、手を胸に当てながらゆっくりと足を踏み入れると……。


「遅い!!」


「ハッ……すいません」


入るやいなや、待ち構えていたかのようにドアのすぐ前に立っていた佐伯社長。その口から突然浴びせられた言葉に思わず後退りをしてしまった。


「ただいまー。今日からなのに出迎えの言葉がそれじゃ、柚原さん可哀想でしょ」


すみませんと必死に頭を下げる私の前に、佐伯社長の長い手がスッと差し伸べられた。


これは握手をする、ということで間違ってないかな?恐る恐るその大きな手を握った。


「ワームデザインの佐伯だ。十三時までなんて無理だと思っていたが、なんとかギリギリ引継ぎ間に合ったみたいだな。遅いから、いい歳して迷子にでもなったかと思ったが。これからよろしく頼む」


「あ、柚原恵梨です、今日から宜しくお願いします!」


すると私の後ろに立っていた伊勢谷さんが、そっと耳元で囁いた。


「今のは、〝無謀な時間提示に応えてくれてよくやった。迷ってるのかと心配したけど、宜しくお願いします〟って、そういう意味だよ」


佐伯さんの言葉を柔らかく言い直した伊勢谷さんの言葉に、私はようやく緊張が解れてクスッと微笑んだ。


思っていたよりも温かかった佐伯社長の手。言葉は少し冷たくて不器用だけど、真っ直ぐな瞳を見ているだけで何かが少し変われるような、そんな予感がしていた。




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