クールな御曹司と溺愛マリアージュ
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お昼休憩を終えると、早速仕事に取りかかった。
とは言え、まだ立ち上げたばかりの会社だからか依頼もなく、慌ただしく仕事に追われるといった状況ではなっかった。
デスクは全て壁に向かっていて、皆が背を向けて仕事をするようにL字型に並べられている。
けれど私のデスクだけはみんなの背中と入口がよく見えるように内側に向いていた。
「これって、どうしてみんな壁側に向けてるんですか?」
「デザインを考えたり設計する時に、気が散らないようにだよ」
拓海さんの説明に、なるほどと頷いた。
「じゃー成瀬と一緒に出てくる」
「ああ、宜しく頼む」
そう言って拓海さんと成瀬君は二人で会社を出てしまった。
行先や帰社時間を書くホワイトボードがあるわけでもなく、こういう所も私が勤めていた会社とは全然違う。
「お二人は何処へ行ったんですか?」
「さぁ」
さぁって、社長にも行先言わないの?しかも社長も聞かないんだ。
「何をするのかどこへ行くのか、だいたい分かるしいちいち報告の必要はない。全て自分の考えで動いてもらっている。ここはそういう会社だ」
パソコンに向かったまま答えた佐伯社長の口ぶりから、二人のことをとても信頼しているんだと感じた。
「お互いを凄く信頼してるんですね」
「勿論大切な事は報告するのが当たり前だが、あいつらの能力を信頼してなきゃ大事な会社立ち上げのメンバーには選ばない。当然だ」
仕事上のそういう関係って、凄くいいな。人数が少ないから、余計に考え方とかがダイレクトに伝わりやすいのかも。
「余計なおしゃべりしてないで、これまとめておけ」
立ち上がった社長が私の椅子に手を掛け、前屈みになりながらメモリーカードをパソコンに差し込んだ。
その距離がとても近くて、いちいち私の心臓が過剰に反応してしまう。
しかも男性なのにとてもいい香りがする……って、馬鹿か私は!
「やり方は柚原に任せるから」
椅子に置かれた手が離れると、ようやくホッと力が抜けたように感じた。
ずっと同じ場所で働くんだから、こんなことで緊張していたら体がもたない。仕事同様、早く慣れなきゃ。