クールな御曹司と溺愛マリアージュ

『朝食を食べろ。
歯ブラシは新しい物が洗面所に置いてある。
着替えはソファーの上に置いてある。必ず着替えて来い。
鍵は必ず閉めろ。
余計な物は触るな。
出勤時間九時!』

メモの最後には最寄り駅も書かれていた。


頭を整理しながら箇条書きのように書かれた文字をしばらく眺めた後、カウンターからぐるりと回ってキッチンに入った。


「えっと、朝食と言われても……」


そう呟きながらキッチンを見てみると、そこにはラップがかけられているお皿が置いてあった。


「これって」

ラップを外し、お皿の上にある物をまじまじと見つめる。

ベーグルの横には生ハムとレタスとスクランブルエッグ、そしてブドウが三粒乗っていた。


「なにこれ、凄い」

よく見るとお皿の下にはもう一枚メモ用紙が挟まっていた。


『冷蔵庫にミネラルウォーターがあるから、一本飲め』


「れ、冷蔵庫ね、はい分かりました」


メモ用紙に向かって返事をした後、買ったばかりなのかと思う程綺麗な黒い冷蔵庫を開けると、書いてあった通りミネラルウォーターが数本入っていた。他にも牛乳やお酒など……。

「ああ駄目駄目、余計なもの触るなって書いてあったんだ」


目を瞑って冷蔵庫をバタンと閉じると、ベーグルが乗ったお皿とミネラルウォーターを持って、リビングの中心にあるガラスのテーブルにそっと置いた。


半分に切られているベーグルには、予めバターが塗ってあるようだった。

そこにレタスと生ハムとスクランブルエッグを乗せて。


「食べていいんだよね?い、いただきます」

朝食はあまり食べないタイプだけど、食べるとしても食パン程度。勿論ひとり暮らしを始めてから人が作った朝食なんて食べたことない。


「なにこれ、すごい美味しい」


特別な物は入っていないはずなのに、何故かとても美味しく感じられた。



< 52 / 159 >

この作品をシェア

pagetop