クールな御曹司と溺愛マリアージュ
鏡に映る自分が見えた瞬間、ドキッと胸が高鳴った。

着ている物がいつもと違うだけなのに、まるで別人だ。


河地さんにも服を選んでもらったことはあったけど、こんなにもドキドキしたことはなかった。

私が着てもどうせ似合わない、今まではそうだったのに。

佐伯さんが選んだ服に身を包んだ自分を見つめていたら、素直に嬉しいという気持ちになって、涙が出そうで……。


何が違うんだろう。河地さんが選ぶ服だって、普通に見たらお洒落で可愛かったばすなのに、こんなに胸が弾むことはなかった。


鏡を見つめる度に、佐伯さんのプレミアム付きのあの笑顔が浮かんでくる。


私……どうしちゃったんだろう……。


自分の胸に手を当てると、心臓の鼓動が伝わってきた。


駄目だ。これ以上考えたらきっと私は……。



シュシュで髪を束ねて急いでベッドを整えた後、鞄と着ていた服を入れた紙袋を手に持った。

カウンターに置いてあった鍵で戸締まりをすると、ドアにもたれ掛かってフーッと軽く深呼吸をする。


静かな廊下を見渡すと、佐伯さんの部屋が角部屋だったということに気付く。

廊下を少し進んだ先にエレベーターがあって、エレベーターを挟んで反対側にも部屋があるようだった。


「二十五階だったんだ……」

こんな高層マンションのエレベーターなんて、乗ったことない。それどころか、入ったことすらない。

「芸能人とか住んでるのかな」

そんなことを呟きながらエレベーターに乗ると、耳の奥がツーンとするような感覚に陥る。

「こんなの、サンシャインのエレベーターに乗った時以来だわ」


一階に降りると、ホテルのロビーのようなフロアに何度も瞬きをした後、コンシェルジュと呼ばれる人の前を申し訳なさげに俯きながら通った。



自動ドアを出ると、眩しい朝の日差しが降り注ぐ。


これって、現実だよね……。


今から向かうのは会社だけど、私はどんな顔をして行けばいいんだろうか……。


酔う前に聞いていた、クライアントと打ち合わせだから会社に戻るのは昼過ぎになる、という言葉がせめてもの救いだ。



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