クールな御曹司と溺愛マリアージュ

 *

ドアの前で右往左往すること、かれこれ十分。

八時四十分に会社に着いたのに、私は未だ中に入れずにいた。


佐伯さんはまだいないはずだけど、成瀬君はいるんだよね。私があの後どうしたのか知ってるのかな。

私、何か変なこと言ってないだろうか……。


九時を一分でも過ぎたらお昼をご馳走しなきゃいけないんだから、こうして悩んでいても仕方ない。


ドアノブに手を掛け、迷いを断ち切るかのように一気にドアを開けた。


「お、おはようござ」
「すいませんでした!」


二人の声が重なるようにして、会社内に響き渡る。


「え?成瀬君?」

「昨日は本当にすいませんでした」

ドアの前で頭を下げている成瀬君。私は状況が飲み込めずに首を傾げた。


「ちょっと、なんで成瀬君が謝るの?」

「俺、昨日楽しくてかなり酔っぱらっちゃって、恵梨ちゃんに凄い失礼なこと言っちゃったみたいで」

昨日の成瀬君とは打って変わって、ガックリを肩を落として何度も謝っている。


河地さんのことかな、だとしたらもう気にしていないし、寧ろみんなに話したことで少しスッキリした部分もある。

それに私だって、昨日は飲み過ぎてきっと大失態を……。


「もういいよ、本当に気にしてないから」

「佐伯さんに散々怒られたし、嫌な気持ちにさせちゃってたらどうしようって今更後悔してます」


佐伯さんが?怒るって、まさか私の為に?



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