クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「だったらやれよ。依頼を受けれないならこの会社にお前を入れた意味がない」


冷たく思える言葉だけど、佐伯さんは適当な言葉を並べるような人じゃない。

成瀬君を担当にするというのは、きっとしっかり考えた結果なんだ。

そうじゃなきゃこんな風にハッキリとした口調で、自信に満ち溢れた目で真っ直ぐ成瀬君を見続けることなんて出来ない。


「この依頼には成瀬が一番相応しいと、俺はそう思った。それとも俺の見込み違いか?」


俯いていた成瀬君がパッと視線を上げると、眉間にしわを寄せてとても凛々しい顔つきで佐伯さんを見つめた。


「俺、やります。やらせて下さい!」

その瞬間、何故だか胸が熱くなって、涙がこみ上げてきた。


「お前は最高のデザインを考えて、設計についてや細かいところで何かあれば遠慮なく俺たちに相談しろ。話は以上」


そう言って席を立った佐伯さんは、再び自分のデスクに向かった。


私、見てましたよ。

成瀬君がやりますって言った時、佐伯さんが少し……微笑んだところ。

そんな顔を見てしまったら、私まで嬉しくて泣きそうになってしまう。



「まぁ今のを簡単にまとめたら、〝成瀬の実力を俺は信じてるから頑張れ〟ってことだな」

成瀬君の肩にポンと手を置いて、いつのもように優しく声を掛けた拓海さん。

「頑張らなきゃ」そう小さく呟いた成瀬君もまた、テーブルの上の資料を持って自分のデスクに座った。


なんだかホッとした私も、お茶を入れようと立ち上がる。

「あそうだ、恵梨ちゃん」

ポットからお湯を注いだ私は、拓海さんの声に振り返った。


「昨日、あの後大丈夫だった?」


「……へっ!」


可笑しな声を発して、手が震えるのをなんとか落ち着かせながらカップをテーブルに運ぶ。

すっかり忘れてた……。


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