【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
空が白み始めたころ、眠りから覚めたアオイは数回瞬きを繰り返し、いつもすぐそこにある優しい父親の姿がないことに気が付いて目を見開いた。
ゆっくりと上半身を起こそうとすると、求めていた大きな手が視界の端から伸びてすぐに抱き起してくれる。
「おはようアオイ」
声の持ち主の艶やかな銀色の髪がアオイの頬を撫で、瞼に落ちてきたキュリオの唇はあまりにも心地よく、そこから伝わってくるぬくもりは自分が彼に愛されていることをいつでも実感させてくれる。
まだ眠いのか、一度はにこりと微笑んだアオイの反応はどんどん鈍く緩やかになっていくが、彼女の意識が再び夢へと誘われてもキュリオの衣を掴んだ手は緩むことなくしっかり握られている。
「私が傍にいる。安心しておやすみ」
己が羽織っていた上着の内側へアオイを抱き入れ、小さく丸まった彼女を腕の中へ閉じ込める。
胸元で小さな寝息を立てる娘のなんと愛おしいことか。
キュリオはそのまま窓辺の椅子へ腰かけると、アオイを抱いたまま白み始めた空を見上げた。
「……城へ戻ろうか。アオイ」
キュリオがガーラントらと話を終えて移動を開始してもアオイは夢の中にいた。
――アオイは前にも見た太古の樹木が連なるあの神秘的な場所に佇んでいた。
「……」
頭上を見上げるも、空にまで届きそうな大樹が生い茂って美しい青空はわずかしかみえない。
(空がみえないだけでこんなに不安になるなんて……)
少しの心細さを胸に抱えながら視線を落としていくと――
『…………』
木の幹に片膝を立てた青年が表情なくこちらを見つめている。
まるでこの世界の数億年の出来事を詰め込んだかのような神秘的な瞳をしている。
「エクシスさま!」
彼の金の髪がキラキラと輝いて。アオイは会えた嬉しさに思わず駆け寄る。
『……』
何か言いたげな瞳がアオイの姿を追い、覚束ない足取りで大樹の根本までやってきたのを確認するとエクシスは舞うように幹から降りてきた。
『場所を変えるぞ』
「?」
一際強い風が吹いたかと思うと次に現れた景色は静かな湖の傍だった。
湖面に反射した日の光に目を細めていると、隣では草花が擦れる音が聞こえた。
『…………』
そこには肘をついて目を閉じているエクシスの姿がある。
「わぁっ! きれい!」
『そうか』
いつも見ている穏やかなで美しい悠久と似ているところもあるが……どこか違う。
エクシスのいるこの場所では自分と彼以外に人を見ることはなく、人の声が聞こえないのだ。
口数の少ない彼の傍に腰を下ろすと、風に揺られた木の葉のや草の音が心地よく耳に響く。
「…………」
(エクシスさまとあそびたいのに……ここちよくて、ねむくなってしまいそう……)
いつも自分をあたたかく抱きしめてくれる父親の姿はなく、まだまだ人肌恋しい幼いアオイが体を横たえると決めた場所はエクシスの隣だった。
『…………』
いつの間にか自分にくっつくようなかたちで眠っていたアオイに気づいたエクシスは相変わらずの無表情だった――。
ゆっくりと上半身を起こそうとすると、求めていた大きな手が視界の端から伸びてすぐに抱き起してくれる。
「おはようアオイ」
声の持ち主の艶やかな銀色の髪がアオイの頬を撫で、瞼に落ちてきたキュリオの唇はあまりにも心地よく、そこから伝わってくるぬくもりは自分が彼に愛されていることをいつでも実感させてくれる。
まだ眠いのか、一度はにこりと微笑んだアオイの反応はどんどん鈍く緩やかになっていくが、彼女の意識が再び夢へと誘われてもキュリオの衣を掴んだ手は緩むことなくしっかり握られている。
「私が傍にいる。安心しておやすみ」
己が羽織っていた上着の内側へアオイを抱き入れ、小さく丸まった彼女を腕の中へ閉じ込める。
胸元で小さな寝息を立てる娘のなんと愛おしいことか。
キュリオはそのまま窓辺の椅子へ腰かけると、アオイを抱いたまま白み始めた空を見上げた。
「……城へ戻ろうか。アオイ」
キュリオがガーラントらと話を終えて移動を開始してもアオイは夢の中にいた。
――アオイは前にも見た太古の樹木が連なるあの神秘的な場所に佇んでいた。
「……」
頭上を見上げるも、空にまで届きそうな大樹が生い茂って美しい青空はわずかしかみえない。
(空がみえないだけでこんなに不安になるなんて……)
少しの心細さを胸に抱えながら視線を落としていくと――
『…………』
木の幹に片膝を立てた青年が表情なくこちらを見つめている。
まるでこの世界の数億年の出来事を詰め込んだかのような神秘的な瞳をしている。
「エクシスさま!」
彼の金の髪がキラキラと輝いて。アオイは会えた嬉しさに思わず駆け寄る。
『……』
何か言いたげな瞳がアオイの姿を追い、覚束ない足取りで大樹の根本までやってきたのを確認するとエクシスは舞うように幹から降りてきた。
『場所を変えるぞ』
「?」
一際強い風が吹いたかと思うと次に現れた景色は静かな湖の傍だった。
湖面に反射した日の光に目を細めていると、隣では草花が擦れる音が聞こえた。
『…………』
そこには肘をついて目を閉じているエクシスの姿がある。
「わぁっ! きれい!」
『そうか』
いつも見ている穏やかなで美しい悠久と似ているところもあるが……どこか違う。
エクシスのいるこの場所では自分と彼以外に人を見ることはなく、人の声が聞こえないのだ。
口数の少ない彼の傍に腰を下ろすと、風に揺られた木の葉のや草の音が心地よく耳に響く。
「…………」
(エクシスさまとあそびたいのに……ここちよくて、ねむくなってしまいそう……)
いつも自分をあたたかく抱きしめてくれる父親の姿はなく、まだまだ人肌恋しい幼いアオイが体を横たえると決めた場所はエクシスの隣だった。
『…………』
いつの間にか自分にくっつくようなかたちで眠っていたアオイに気づいたエクシスは相変わらずの無表情だった――。