【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「アオイ様のことですし、何かしらの返事は来ると……」

 口では平静を装いながらも、アレスは紙に書かれたダルドの言葉の意味を幾度も頭の中で反芻していた。

(……アオイ様が知り得ないことを口にされた? ……これは刃物を意味する文字だ……)

 ”刀”この単体の文字を書くようダルドに支持されたアレスだったが、カイが練習用に使用していた木刀にも使われるこの文字がさほど重要なものとは思えず、それがかえってアレスの視線を釘付けにさせた。

(ダルド様からこの件に関して詳細を聞くことは恐らくできない)

 それを証拠に彼が相手として選んだのがキュリオなのだ。そして緊急事態であることは今の状況を見ればわかる。キュリオが帰城するのを待たずに言葉を伝えたいのだから。
 そうなると必然的に気になるのは幼い姫のことだ。

(……アオイ様は? キュリオ様が御不在で寂しがられている以外に変わったことは――?)

 思案を巡らせるうちに視界の端にダルドの持つ書物が目に入った。

(”刀”についての手掛かりが書かれているのをダルド様が見つけられた……ということだろうか)

 <鍛冶師>であるダルドが開ける魔導書はアレスには開くことができない。だからこそ個々の能力が生きてくるのかもしれないが、王ともなればあらゆるものに目を通すことが可能なのだ。そして王に次ぐ実力者であるガーラントならばそれを開くことは可能かもしれない。キュリオやダルドに聞くのは困難だが、ガーラントならば教えてくれるかもしれないという期待がアレスの心にひっそり芽生える。
 だが、勤勉であるが故のアレスの探求心は時として仇になることがこれから先、多々起きてしまうとはまだ彼自身思ってもみなかっただろう――。

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