【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「どう? キュリオから返事はあった?」

 前かがみにアレスの手元を覗き込んだダルドの肩から白銀の髪がさらりと流れた。
 アオイの口から予想だにしなかったカタナという言葉について調べていたダルドはようやく手掛かりを得て、至急キュリオらに言葉を送るようアレスに依頼していたのである。

「御覧になっているようですが……まだ返事は来ておりません」

 机の上に広げられた四隅に呪文の書かれた紙を固唾をのんで注視していたアレスがダルドの声に顔をあげた。
 

――バタンッ

『アレス!』

 幼い姫の戻りを心待ちにしながら彼女の夕食の支度をしていた侍女らは、大扉が勢いよく開け放たれた音と彼の名を呼ぶ声を同時に聞いて目を見開いた。

『……は、はいっ!』

 遠目にもわかるほど神妙な面持ちの彼は手に分厚い書物を小脇に抱えており、その表情と書物がどう結びつくのかを早くも予想し始めたアレスはやはり頭の回転がいい。

(ダルド様が御持ちのあの書は見たことがない……。新しい魔導書を見つけられたか、もしくは魔導書内に欠陥を見つけられたか……)

 どちらにせよ彼の顔を見るからに良い知らせではないことは確かだ。ダルドに漂う不穏な気配に自然とアレスは心構えるも、彼に声をかけられることなど滅多になく緊張したアレスが彼の許(もと)へ行くよりも早く、人型聖獣の彼がこちらにやってきた。
 
『キュリオに言葉、届けられる?』

『……え?』

 長身の彼を見上げながら驚き口を開けたままのアレスにダルドは眉根を寄せて言葉を発する。

『……できる? できない?』

『で、できます! ダルド様、こちらへっ!!』

 公務へ出掛けているキュリオに言葉を送りたいと言うからに、よほどのことなのだろう。不安と少しの期待を抱いたアレスは連絡用に託されている例の紙を取り出して机の上に広げ、ダルドの言葉のままに羽ペンを走らせたのだった――。
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