【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「おお! キュリオ様!! この度はこのようなことになってしまい……誠に申し訳ございませんでした」

 この街を束ねる長とみられる中年の男やウォルター家の男が、頭が膝についてしまいそうなほどに腰を折り曲げながら謝罪する。
 わずかな火に灯された通路にて謝罪されたキュリオが彼らを振り返る。

「まあこんなこともあるじゃろ。……じゃが、キュリオ様は被害を受けたあの少女のことを心配されておる。家同士のわだかまりも起きるやもしれん。注意して見てやってくれんかの」

「……は、はい……」

 キュリオらしからぬ言葉使いに、言葉を受けた男たちの目が点になっている。

『ガ、ガーラント様ッ! 御言葉使いが……!』

 傍に控えた従者のひとりが慌てた様子で耳打ちした。

「……む? …………そういう事だ。あの少女たちはしばらく私が預かる。心配せぬように」

 短い沈黙のあと、そこまで言うと足早にどこかへ行ってしまったキュリオ一行。呆気にとられた男たちは顔を見合わせながら「キュリオ様はお疲れに違いない」と、ますます負担を掛けてしまったことに胸を痛めるのだった。


「むぅ……キュリオ様の御御足の長さに儂は生涯慣れる気がせんぞ……」

 長身のキュリオの視点から見る世界にさえ驚くことばかりだが、この長い手足はなかなか体に馴染まない。先程の速足でさえ絡まりそうになるのを必死にこらえ退散したというのだから、まずは部屋の中を歩き回る練習から始めなくてはならない。

『日の出までには戻る』

 短くそう言ったキュリオはガーラントを自分の姿にする魔法をかけると、少女らを置いて先に城へと戻っていった。
 そしてエリザ達は速駆の魔法をかけた馬たちの馬車へ御目付け役の魔導師たちと乗り込んでこの街を後にした。


 与えらえた寝室に身を隠すように滑り込んだキュリオ……もといガーラントは、身近なソファへと腰をおろしてぼんやり窓の外を眺める。

「公務とはいえ、何もない夜であればキュリオ様の替わりも不要じゃったろうにのう……」

 誤差の酷い腕を伸ばし水の入った銀の杯へ指先で触れながら、そこに映った麗しい王の姿にため息が漏れる。

「……しかしなんじゃ? この隙のない美貌はっ……!!」

 キュリオの姿になるのは初めてではないが、いつ見ても変わらぬ美しさを誇るキュリオの美貌に胸が高鳴る。

「麗しい王が多いのは違いないが、やはりキュリオ様は別格じゃのう!!」
 
 これがキュリオの姿をしたガーラントだとは王の従者たち以外には伏せられている。
 そのため、この場を見られてはキュリオが自画自賛していると誤解を受けてしまうため、時と場合は慎重になる必要がある。なるべく平静を装いながらも気を抜けば先程の言葉使いのようにボロが出てしまうので終始緊張の中にいるガーラント。早く主が戻ってくれることを祈りながら、興奮に眠れない夜を過ごすのだった。

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