妖狐の花嫁
そして目が覚めると
私はあの部屋で布団の中にいた。
起き上がって辺りを見るけど、
昨日と何の変化もない。
…ただ1つ言えば、着ているものが制服から着物に変わっていた。
どうせ黒田くんの仕業だろうと思った。
(……顔、洗いたい。)
昨日散々泣いたせいで
きっと酷い顔になっているに違いない。
そう思って
私はゆっくり布団から立ち上がり
襖の前まで歩く。
…もしここを出たら、また怒るだろうか。
そんなことを考えて
彼が来るまでここに留まろうか迷った。
しかし それも束の間、
突然目の前の襖が
スパンッ!と大きく開かれる。
「わっ!?……あ…。」
「…おはようございます華様。
朝食のご用意が出来たので お迎えに上がりました。」
私は驚いて声を上げるも
そこにいた人物に見覚えがあって
そのまま彼を見上げた。
…確か、名前は椋さん。
「…あ、あの
朝ごはんの前に顔を洗いたいんですけど…。」
「承知いたしました。
では、こちらへどうぞ。」
私の要求に応じるように
椋さんが前を歩き出したので
私はそれに静かについて行く。
昨日 逃げる時にも思ったが
ここの屋敷は迷路のように広い。
きっと方向音痴の私には
到底覚えられない広さだと思う。
少し歩いてから椋さんに通されると
そこは広い洗面所で、
「お済みになりましたら申してください」という彼の言葉に頷いて
私はその部屋に入る。
(…すごい……私の家とは大違いだ。)
顔を洗いながら
その仕組みに驚きながら周りを眺める。
蛇口なんて無く、
綺麗な壺のようなものから
水が流れ出ていて
それを手で掬い取って顔を洗う。
…どこから水が湧き出ているのかわからないけど、とにかくすごい。
私は側に置いてあったタオルを適当に1枚取って、それで顔を拭く。
目の前に用意されている鏡を見ると
やはり少し、目が腫れていた。
「…終わりました。」
「そうですか。
タオルはこちらでお預かりします。
…では、行きましょう。」
表情を一切変えること無く、
淡々と私にそう告げて歩き出す椋さん。
私は静かに その後をついて行った。