妖狐の花嫁
(…………、?)
いきなり視界が眩しくなって
咄嗟に目を瞑ると
いつの間にか私は
たくさんの木々の中に立っていて、
外の風が 体に当たる。
……ここは、森…?
「あの屋敷から1番近くて安全なのはここなんだ。森の中だから色んな獣がいるけどね。」
当然ながら、側に黒田くんも立っている。
黒田くんはサラッとそんなことを言うけど、
彼と違って力のない私がここにいて
襲ってきたりしないのだろうか、と
少し不安を抱く。
離れちゃダメと言ったのはそういうことだったのか…。
何となく意味を察した。
「…思った通り、すぐ来たね。」
「え?」
不意に 黒田くんがそう呟いて
草むらの方に視線を向ける。
来たって……まさか……
そう思った瞬間
草むらから ガササッ---!と音がして
こちらへ何かが向かってくる。
(え、何───?!)
恐怖に身を固める私の腕を
黒田くんが即座に引っ張って
その場から少し離れた。
───すると
(───っ、?!)
草むらから
数匹の大きい狼が現れ、
大きな牙を剥き出しにしながら
こちらへ強く威嚇してくる。
この狼…まさか私たちのこと食べようとしてるんじゃ…?!
私はそう思って
黒田くんの着物を掴みながら
彼を見上げる。
しかし彼は慌てた様子なく
変わらない笑みを浮かべたまま
彼らを見ていた。
「っ…、ねぇ黒田くん!危ないよ!!」
「大丈夫。俺がいるんだから。」
彼は私に視線を向けてから そう言うと
狼達に1歩近づいて
彼らに話しかけ始める。
「ねぇ、仁はいないの?
俺が来たって呼んでくれない?」
「……黒妖狐の吟か。
仁様も直にここへやってくるはずだ。暫し待て。」
(……!喋った…!
ということは、彼らも妖…?)
仁って誰のことだろう、と
私が彼らの会話する姿に
静かに驚いていると
そう思った瞬間 すぐに
後ろから誰かの…気配がした。