今日も明日もそばにいて

珈琲を入れてソファーの前に並んで座った。
無意識に珈琲を口にした。

「…あのね、…話したいって言ったけど、畏まった事じゃないの。なんて言うか…、普通の事を普通に、もっと話したいの。今日、一緒に居たには居たけど、ご飯食べたら寝ちゃったし。それで」

「はい、…そうですね。そう言われると大して話してないですね」

「う、ん。あ、私ね、神坂君の部屋に泊まったでしょ?それで、送ってくれるって言うのを強引に帰って来たでしょ?」

「はい。…あれは寂しかったな…」

え。……寂しかった?

…。

「…あれはね…、私ね、…恥ずかしかったの。…神坂君はね、私と違って…いい香りがしたの」

「え?」

「あ…あの時、なんていうか…抱きしめられていたでしょ?」

今日もだけど。

「あ、はい、…まあ」

「神坂君はいつものオードトワレのいい香りがしてたのに、私ね…私はお酒臭くて、髪の毛は煙草の匂いがついてて。それで…そんな自分が嫌で、…慌てたの」

「あー、俺は軽くシャワーを浴びたからですね。多分、ボディソープの匂いだと思います。オードトワレと同じ匂いなんで。すみません、俺、自分だけ。だけど、そんな事…」

「それはいいの。…全然。私は眠ってた訳だから借りてシャワーする事も無理だったんだし。そもそも、ほら、シャワー出来るくらいしっかりしてたら、私だって直に帰ってるって話でしょ?」

「…はい。でも、そんな事って言ったら、デリケートな事ですけど、…そんな事で帰ったんですか?俺は全然気にならなかったのに。だって、俺らは同じ状況で飲んでたんですから」

「それはそうだけど…、でも、お店を出てからの…あの状況は…神坂君の部屋で、匂いは違ってたじゃない?私は……年上だし、しっかりしてないみたいで、だらしなくて情けなくて…、とにかく嫌だったの。酔って解らなくなって…、男の人の部屋に意識無く寝ちゃったなんて…」

「ふぅー…。匂いがどうとか、今度からはそんな事では帰しませんよ」

「え?な、に…」

急にどうしたの?

「…もういい加減解ってもらえませんか?」

「え?」

「俺が誘って連れ出している事。何だと思ってます?」

「え?…暇潰し、でしょ?…だって…」

そう言ったでしょ?

「はぁぁ、…もう…。本気で暇潰しだと思ってます?」

「え、だって、…解らないもの…。暇潰しって言ってたし、言ったじゃない。…それに」

「それに?」

「何でも無い…」

…解らない。

「はぁあ?」

「ちょっと、何…、今の、逆切れ?」

「…逆切れって…。何でも無いなんて言って、言う事を止めたからです」

「…だって」

俯いた。

「それにって、だって何です?」

「だって…私だって…思い込みで勘違いしてたら…そしたらバカみたいで…、恥ずかしいから…。確信が無いんだもん…誤解てこと、あるでしょ?……解らないんだから…」

ブツブツと歯切れの悪い言い方だ…。だって、そうなるでしょ?自意識過剰ほど恥ずかしいことはないもの。

「確信て…。だから何です?それはつまり、実季さんは何が言いたいんです?勘違い、誤解?それでもいいから聞かせてください」

言わせたいの?…私が言わなきゃ駄目なの?…もう…随分グイグイ来るじゃない…。でも…。

「今、何を言おうとしてるんですか?つまり?実季さんは?」

あ、催促?…、…解ったわよ…。

「神坂君の事…」

「俺の事が?」

「神坂君の事が…」

…もう…。

「好き…なのかも知れない、ぁ」

んぐっ。言い終わるかどうかのタイミングで、もう、抱きしめられていた。

「はぁ…俺、実季さんの事、凄い、好き…好きです。……好きなんです」

あ…神坂君…。ずるい。ちょっと…ずるくない?
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