今日も明日もそばにいて
タクシーを停めて乗り込んだ。
「すいません、〇〇迄、お願いします」
「はい」
二人一緒だ。
「実季先輩?」
…もう眠ってる?
「…柊一君…」
「はい」
起きてた。…ん?何だ?
「先輩?」
……ん?寝言だったのか?
…ん。う〜ん…温かい。ん゙ー…ん゛ー。…暑いかも…。…………ん………え?
え?!
「起きましたか?まだ早いです。もう少し寝ましょう」
…。え?いや、ちょっと?神坂君、何故神坂君が居るの?これは………夢?私…まだ夢の中?…なの?…昨日は確か……え??
「こ、神坂君?…えっと………ここ、は…」
「俺ん家です」
「はい」
…近い、凄く顔が近い。朝からイケメン。私…、少し見上げて見つめ合ってるし。ん?
「え?違う違う。はいじゃない、そうじゃなくて」
いやいや、はいって…、納得してる場合じゃ無いでしょ。こ、これは、とんでもない事よー!
「違わないです、俺ん家です」
「あの、ち、違うの。神坂君ちはいいの。いいのって言うか、違うの。これ…って?ねえ、え?」
…思い出して…確か…。
「シーッ。…静かに。落ち着いてください。早朝に奇声をあげると誤解の元です」
「え、え、でも、…あ、ごめん。でも…これ…」
この状況、どう見てもまずいでしょ?
「いいから。大丈夫です。まだ大丈夫でしょ。ちゃんと帰って出直せるように起こしますから。今は寝てください」
「いや、でも…」
…でも、でも。でもーっ!
「寝てください」
「え、は、はい」
って、返事してる場合じゃないってば…。
冷静に見てみれば…冷静?!決して全裸って訳じゃない…。二人共、程々に着衣している。はず。はずよ。と言っても、神坂君は、…上半身は裸。…裸!…下はパンツのみ、多分、穿いてる。穿いてる。私は…ひえ〜〜。辛うじてキャミソールを着て来ていた事に救われてる。のかな…。じゃなきゃ…最悪、ブラとショーツ?になってたって事かも。…どうなってるの?いつ?どうなったの?
それに、寝てくださいって言われて…神坂君に抱き込まれてる…。何この状態、あり得ないでしょ………大変…。はいって、悠長に寝てる場合?…思い出して?
えっと、つまりは立ち飲み屋から、帰って来たのは…神坂君ちへ…って事よね。…はぁ。気が抜けてると、お酒にも負けたのかな。…抜けてたの?……どうして…こんな事に…。あり得ない。
課のナンバーワンと寝てるって、それだけでもヤバすぎでしょ?温かい、なんて…包まれて眠ってる場合じゃ無いのよ。…帰る。とにかく一刻も早く帰らなくちゃ。
「あの、ね、神坂君。私…」
ベッドから抜け出そうと試みた。駄目だった。動こうとするとかえって全然動けなかった。拘束する力が増すばかり…。どうして…。
「動かないで。…早目に朝ご飯も作りますから。心配無く寝てください」
あー、ゔー。冷静に言わないで。ご飯とか、そういう事じゃないんだってば…。
「神坂君…」
「はい…」
「神坂君、あのね…あの…」
この格好…これは…。
「安心してください。何も無いです。心配するような事は何も…。何も…手は出していませんから。解ったら、はい、寝て」
えー。益々抱き込まれた。…あったかい。なんて言うか、この…人肌が…。堪らなく…。抱かれてるって気持ちいい…心地いい。あー、このまま眠りたい…。
…違う!……駄目駄目。駄目なのよ。そうじゃなくて。
「あ、違う!」
そうじゃなくって。それは聞かなくったって自分の身体だもの…違和感があれば解るはず。それは無い。はず。
とにかく帰りたい。こんなの…困るのよ。
「神坂君、帰りたい。帰りたいの」
…お願い。解放して。
「実季先輩…」
「とにかくもう帰りたいの」
この腕、ほどいて。お願い。
「まだ電車も動いて無いです。どうしてもって言うなら、俺、車で送ります」