今日も明日もそばにいて
…居た。はぁ。一体、何時間待ったんだ…。
「大谷さん?」
「あ、神坂さん。すみません、こんな。あの…」
「ごめん、随分待ったでしょ?」
「え?いえ、私が勝手にお願いしたんです。そんなのはいいんです」
「出ようか」
「え?…私…お話が…」
「うん。取り敢えず出て、…ご飯にでも行こうか。遅くなったし、お腹空いたでしょ?」
「あ…、はい、でも。あの、有難うございます。でも、いいんですか?…ご飯なんて…」
「ん?何でもいい?近くの店でいいかな?」
「あ、はい!」
…いい顔をしようとした訳では無い。2時間も3時間も待ち続けて、夜も遅い。一方的な事でも、長く待たせた詫びのつもりで誘った。食事くらい、いいよな。実季さんには何も伝えて無いけど。
「ご飯を食べながらだと話し辛いかも知れないから、何か変だけど、取り敢えず話は後にしようか」
「…はい」
イタリアンの店に入り、それぞれ自然に簡単に済ませられるメニューを選び、今はもう、珈琲を出されていた。話があるのは彼女の方だ。いざその場面になったら黙り込んだままだ。
話したい内容は解っているつもりだ。格好悪い自惚れかもしれないが、それしかないはずだ。切り出すタイミングに戸惑っていてもただ俺は待っていた。
「……あの…、最近、神坂さんに彼女さんが居るって事を聞いて、それは本当なのかなと思って。よく解らない話なんです、ただの噂だったら、私…。神坂さんの事が…入社した時から…あの…。つき合ってください。…好きです。…好きなんです。私では駄目ですか?」
「…大谷さん」
「は、い…」
「こんな俺を好きだと言ってくれて有難う。はっきり言うよ?気持ちは嬉しかった。でも、その思いには応えられない」
「あの…やっぱり彼女さんが居るのですか?」
「居ても居なくても、それとは関係無く、君の気持ちには応えられない」
「…私の事は好きになれないって事ですよね」
「俺、いくつだと思ってる?」
「…え?知ってます。今は32歳です。もう少しで33歳になりますよね?」
…誕生日、知ってるんだな。
「…よく知ってるね。大谷さんは俺より全然若いよね?年齢差があるからって訳で言うんじゃ無いけど、大谷さんには二十代の男の方が似合うと思うよ?上手く言えないけど、今だけを見ないで、冷静に将来も想像してみてごらん?五年後、十年後、想像してみたら、俺は無いと思うよ?君からしたら俺は直ぐオジサンだ。今だってオジサンだ。
今だけ良かったらいいなんてつき合いは、もう出来ない年齢だと思っているし、しない。つき合って先を考えるのは年相応の人だと考えているんだ。
オジサンに告白するなんて、勿体ない事しちゃ駄目だ。その勇気は別のいい男に使うといい。
納得してくれるかな?」
「神坂さん…。あ…有難うございました。…いいんです、解ってました…駄目元だって事は解ってて……。でも私、まさか、ご飯一緒に出来るなんて思っても無くて…嬉しかったです。解かってたんです初めから…駄目だろうなって。だから、これだけで、凄く嬉しかったです。駄目でも自慢になります!あの、有難うございました。お話、聞いてくれて。
あの、私、帰ります」
「大丈夫?送れないけど。遅いから気をつけてね」
「はい!大丈夫です。では…有り難うございました」
バッグを持って立ち上がると頭を下げられてしまった。
…ふぅ。終わった。上手く言えてたかな。格好つけたみたいになってなかったかな。どうもこんなのは苦手だ。言われたからには、こういうのも、ちゃんと終わらせておかないといけないんだよな。