今日も明日もそばにいて

後ろから抱きしめた。

「…怒ってるのか?俺はそんなに悪い事をしたのか…。断るにしても、店に誘ったのは駄目だったのか?…。待たせてしまったと…ご飯もしては駄目だったのか…話すにしてもそこまでする必要はあったのかって」

あ、…違う。そうじゃないの、…拗ねてるだけなの。首を振った。素直に、違う、ごめんなさい、が言えない。…可愛くないだけなの。私がいけないの。

「…こんな事ばかりある俺がもう嫌になった?」

違う違う。…違うのに。

「よく解らなかった俺の、嫌な面が見えて来た?断るのに、ご飯までして、いい顔をしようとしてるって、そんなところも許せない?…」

そんな事無い。そんな事まで言わせちゃいけない…。ブンブン首を振った。

「…はぁぁ、…言葉で言ってくれないと解らない。二人で話したよね?些細な事も口に出して言おうって。じゃないと、積み重なって大きな爆弾になって駄目になるって」

うん、解ってる。ちゃんと解ってるの。

「…黙って抱きしめて、…シたら済むなんていうのは、実季は嫌いだろ?…有耶無耶で曖昧な解決の仕方。それでいいという人も居る…。
だけど、俺もだけど、実季はそういう解決の仕方は嫌いだろうと思っている。はっきりさせたい事は言葉ではっきりした方がいい。……甘やかさない。言わなくても解るでしょ?って。…実季が背中を向ける理由は推し量らない。返事もしたくなくなる程の訳があるなら、実季が自分の口から言ってくれるのを待ってる」

…。

んー…中々、難しいみたいだな…。プライドが邪魔をするんだろうか…。俺も、折れればいいんだろうけど…。喧嘩じゃない、言いたい事はちゃんと言って欲しい。

「…帰るよ。出たら必ず鍵しておいて?…じゃあ、おやすみ」

背中から温もりが離れていく。鞄を手にする音がした。廊下を歩いて行く音が小さく聞こえる。
靴を履いてる。

カ、チャ。…パタン。

あ…帰ってしまった…。はぁ…神坂君は悪く無い。何一つ悪い事はしていない。全部話してくれた。素直に言えない私が悪いだけ。

…。

走った。玄関に走り、慌ててスニーカーに足を入れた。パンプスでは追いつけない。
ガチャ…ドン。
あ、もう、何、鍵掛けてるのよ、馬鹿、早く早く。カチャ。神坂君…、神坂君、待って。
帰らないで。ドアを開けて足を踏み出した。

「実季…」

え?………あ、…あ。

「神坂、君…」

ドアの横に立っていた。飛び付くように抱き着いた。

「ごめん。…ごめんなさい。直ぐ言えなくて…ヤキモチなの。ごめんなさい…、ヤキモチ妬いて…拗ねてたの。大学の後輩の女性も、美香ちゃんも、私より若くて可愛いから。何でも無いって解ってても、言い聞かせても、どうしても妬いたの。ごめんなさい、この前から嫌な気持ちにさせて。言葉に出来なくて。強情で…ごめんなさい。素直に言えなくて…ごめんなさい…」

「…ふぅ。…追い掛けて来てくれないかと思った。はぁぁ。本当に終わりになるのかと思った…実季」

「…神坂君?」

「試した訳じゃないんだ。部屋は出たけど、帰るに帰れなかったんだ。もう一度、部屋に入り直そうと思って…、このままにして帰れなかった。追い込むみたいに言い過ぎたよな。ごめん実季…」

ドアを開けて踏み込んだ。

「先に言い訳しておく。あやふやにしたくてするんじゃない…。これは…したいからするんだ…」

きつく抱きしめられて、口づけられた。

「…実季…もっと甘いの欲しくない?」

…見上げるようにしてじっと見つめた。

「…駄目だよ。言葉にしないと…シない」

…。

「あ゙ー、もう。じれったい」

もう少し長く、更に深いキスがしたかっただけなのに。言葉では中々求めてくれない。気持ちは解ってるし、こんな事は言い辛いっていうのも解る。言わなくたって雰囲気で解っている。
だけど、いつも俺からの一方的なモノばかりではなく、…もっと、実季からも、思いも態度も欲しいんだ。
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