今日も明日もそばにいて
…あれは、入社式も終わり、配属されたのが営業一課。
社会人としても仕事に対しても責任を持てるようにと意気込んでいた頃だ。
社会人一年生にとって、当然ワクワクするような楽しいモノなんて無く、ほぼ毎日…、志野田と愚痴を零しあい、不甲斐無い自分を振り返る日々だった。失敗が恐くて不安になるばかりだった…。
休憩といえども、大した息抜きも出来ず…あの日、休憩室には、ある意味緊張する先客が居たんだ。
引き返すのも今更変だ。
少し離れた場所に腰を下ろした。
「はぁぁ」「はぁ」
…あ…何だか…。座ると同時に溜め息をついたら、一緒になってしまった。
出来ない新人が、『何、一丁前に溜め息なんかついてんだ』って、思われてるかな。
「…フフ、お疲れ様。貴方も?」
「え?あ、お疲れ様です」
掛けられた言葉は思ったモノと違った。
「…駄目駄目。溜め息なんてついちゃ」
…やっぱり、だよな。
「…すみません」
仕事もろくに出来てないのに、生意気に休憩してるなんて、て思ってるのかな…。
「違う。謝ることじゃなくてね。溜め息は、幸せが逃げていくって言うわよ?」
「え?え、あの…」
そんなこと突然言われたって。即座に返す言葉は見つからない。
「あ、ごめんね、いきなり変な事。でも聞いた事ない?ないかな。
んー、こんな事は女子だけなのかな、気にするのって。…本当かどうかも解らないもんね。
だって“息抜き”する為に、ここに居るんだもんね。溜め息だって出るってものよね。
あー、私、もう女子なんて言えない歳だった…。フフ…アラサーよ、アラサー。フフフ」
「は、あ。はい」
あ、ヤバッ…。歳の部分を肯定した訳じゃ無かったんだけど。明白に狼狽えた。
「あ、いいえ」
「ん?どうしたの?」
「あ、いえ、あー、本当に幸せが逃げていくんですか?…」
慌てて繕った。
「え?フフ。そんな訳無いじゃない。迷信よ。何かを吐き出したいから溜め息をついて…その後、新しい綺麗な空気を吸い込む。いーっぱい吸い込むのよ。
まあ…それって深呼吸だけどね、フフ。
それで、自分の中の有るような無いような、負のモノが薄くなっていくのよ…。
私の勝手な考え方だけどね?
あー、でもね、違う溜め息もあるじゃない?貴方は無いの?そういうの。
まあ、その容姿なら…無いのかな。誰かを思って、溜め息つく事って。
貴方…神坂君、よね?」
「あ、はい」
知っててくれてるんだ。
「志野田君と、公私共にいいコンビよね?会社名は出して無いからいいようなものの。あまり立ち飲み屋さんで愚痴っては駄目よ?」
「え゙っ?」
…どうしてそんな事を知っているんだろう。
「あそこ、私もたまに居るのよ?一人で奥の方に居るから、気がつかないでしょうけど」
「あ…」
知らなかった。行くんだ立ち飲み屋になんて。…意外だ。本当かな…。
「仕事が原因の溜め息なら…これからよ?頑張ってね。あ、ちょっと待ってて?
……はい、…奢り。珈琲、大丈夫よね?」
ブラック珈琲を買って渡してくれた。
「あぁ、はい、すみません。俺、すみません気が利かなくて…」
「ううん、勝手に私が奢るのよ。これは神坂君の出世払いにしておく。安過ぎ?フフフ。
…気持ちに余裕が出来たら奢ってね?…それから。
こんな時は、すみませんじゃなくて、有難うって言ってくれた方が嬉しいかな。
すみませんっていう顔より、有難うって言ってくれた顔の方が、表情が違うでしょ?笑顔はそれだけで好印象よ?
折角、男前に産んで貰ってるんだから。解ってるだろうけど、笑顔はね、営業的にもキラースマイルなのよ?
あ、私の溜め息の理由はね…。んー…やっぱり…内緒かな。…フフ。
じゃあね、お先に」
あ。…はぁ。…杜咲実季さん。
先輩が言ってた。近寄り難い訳では全然無い、寧ろ凄く気さくだけど、綺麗だからやっぱり高嶺の花なんだって。自分のモノにしようと思うには、相当勇気がいるって。あ、お礼。
「杜咲さ〜ん。有難うございました〜」
大分、遠くなっていた。後ろ姿に追うように声を投げた。
「それ。いい顔〜。どういたしまして〜」
振り向いてくれて、ちょっとだけ手を振られた。
あっ。俺、生意気に、勢いで手を振りそうになった。直ぐ下ろした。
杜咲さん…目茶苦茶、可愛らしい笑顔だ。……はぁ。
社会人としても仕事に対しても責任を持てるようにと意気込んでいた頃だ。
社会人一年生にとって、当然ワクワクするような楽しいモノなんて無く、ほぼ毎日…、志野田と愚痴を零しあい、不甲斐無い自分を振り返る日々だった。失敗が恐くて不安になるばかりだった…。
休憩といえども、大した息抜きも出来ず…あの日、休憩室には、ある意味緊張する先客が居たんだ。
引き返すのも今更変だ。
少し離れた場所に腰を下ろした。
「はぁぁ」「はぁ」
…あ…何だか…。座ると同時に溜め息をついたら、一緒になってしまった。
出来ない新人が、『何、一丁前に溜め息なんかついてんだ』って、思われてるかな。
「…フフ、お疲れ様。貴方も?」
「え?あ、お疲れ様です」
掛けられた言葉は思ったモノと違った。
「…駄目駄目。溜め息なんてついちゃ」
…やっぱり、だよな。
「…すみません」
仕事もろくに出来てないのに、生意気に休憩してるなんて、て思ってるのかな…。
「違う。謝ることじゃなくてね。溜め息は、幸せが逃げていくって言うわよ?」
「え?え、あの…」
そんなこと突然言われたって。即座に返す言葉は見つからない。
「あ、ごめんね、いきなり変な事。でも聞いた事ない?ないかな。
んー、こんな事は女子だけなのかな、気にするのって。…本当かどうかも解らないもんね。
だって“息抜き”する為に、ここに居るんだもんね。溜め息だって出るってものよね。
あー、私、もう女子なんて言えない歳だった…。フフ…アラサーよ、アラサー。フフフ」
「は、あ。はい」
あ、ヤバッ…。歳の部分を肯定した訳じゃ無かったんだけど。明白に狼狽えた。
「あ、いいえ」
「ん?どうしたの?」
「あ、いえ、あー、本当に幸せが逃げていくんですか?…」
慌てて繕った。
「え?フフ。そんな訳無いじゃない。迷信よ。何かを吐き出したいから溜め息をついて…その後、新しい綺麗な空気を吸い込む。いーっぱい吸い込むのよ。
まあ…それって深呼吸だけどね、フフ。
それで、自分の中の有るような無いような、負のモノが薄くなっていくのよ…。
私の勝手な考え方だけどね?
あー、でもね、違う溜め息もあるじゃない?貴方は無いの?そういうの。
まあ、その容姿なら…無いのかな。誰かを思って、溜め息つく事って。
貴方…神坂君、よね?」
「あ、はい」
知っててくれてるんだ。
「志野田君と、公私共にいいコンビよね?会社名は出して無いからいいようなものの。あまり立ち飲み屋さんで愚痴っては駄目よ?」
「え゙っ?」
…どうしてそんな事を知っているんだろう。
「あそこ、私もたまに居るのよ?一人で奥の方に居るから、気がつかないでしょうけど」
「あ…」
知らなかった。行くんだ立ち飲み屋になんて。…意外だ。本当かな…。
「仕事が原因の溜め息なら…これからよ?頑張ってね。あ、ちょっと待ってて?
……はい、…奢り。珈琲、大丈夫よね?」
ブラック珈琲を買って渡してくれた。
「あぁ、はい、すみません。俺、すみません気が利かなくて…」
「ううん、勝手に私が奢るのよ。これは神坂君の出世払いにしておく。安過ぎ?フフフ。
…気持ちに余裕が出来たら奢ってね?…それから。
こんな時は、すみませんじゃなくて、有難うって言ってくれた方が嬉しいかな。
すみませんっていう顔より、有難うって言ってくれた顔の方が、表情が違うでしょ?笑顔はそれだけで好印象よ?
折角、男前に産んで貰ってるんだから。解ってるだろうけど、笑顔はね、営業的にもキラースマイルなのよ?
あ、私の溜め息の理由はね…。んー…やっぱり…内緒かな。…フフ。
じゃあね、お先に」
あ。…はぁ。…杜咲実季さん。
先輩が言ってた。近寄り難い訳では全然無い、寧ろ凄く気さくだけど、綺麗だからやっぱり高嶺の花なんだって。自分のモノにしようと思うには、相当勇気がいるって。あ、お礼。
「杜咲さ〜ん。有難うございました〜」
大分、遠くなっていた。後ろ姿に追うように声を投げた。
「それ。いい顔〜。どういたしまして〜」
振り向いてくれて、ちょっとだけ手を振られた。
あっ。俺、生意気に、勢いで手を振りそうになった。直ぐ下ろした。
杜咲さん…目茶苦茶、可愛らしい笑顔だ。……はぁ。