ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
ビクン!と心臓の音が跳ねた。
示された番号が社長のデスク番号だったからだ。


震え上がりそうな気持ちで受話器を持ち上げる。
ゴクン、と息を飲んでから声を前に出した。



「はい。片桐です」


舌を噛みそうなくらい緊張していた。
受話器の向こうから聞こえてくる声が、何を言うのかと思うと恐ろしかった。



「……金曜日は付き合ってくれてありがとう」


思いもせず、お礼から始まった。


「えっ…」

「あの時は変な話になってごめん。仕事の話をすると、どうにも気分が苛立って……」


抑揚のない話ぶりしか耳にしてこなかったせいか、社長の声の浮き沈みがいつもと違うように感じる。


「本当は君のことを教えてもらいたかったのに、つまらない雰囲気にさせて申し訳ないと思っている」


これは本音で話しているんだろうか。
それとも、あの方面での誘いをしたいが為の演技?


「君さえ良ければ、また一緒に食事してもらえれば有難いんだけど」



「駄目かな」…と聞いた声が、悲しそうに胸に響いた。

社長室にいる彼が、とても寂しい思いを抱えているように感じた。



「わ…たしで良かったら、いつでも……」


何故そんな答え方をしたのかわからない。
でも、今この電話を掛けてきている人に、一人ではありませんから…と、伝えたい気持ちが働いた。



「ありがとう」


ホッとしたような声が聞こえて、こっちの胸も軽くなる。


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