ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
田んぼの間にポツン、ポツンと建っている家は下流に向かうにつれ増えていく。
霞んだように見える海岸線沿いには商業施設が立ち並び、ビル街までもが白っぽく見えた。


ぼぅっと眺めていたからだろうか、「行こうか」と社長に声をかけられた。


「は…はいっ!」


慌てて数メートル先にいた人の側へ走り寄った。ふわっと漂う仄かな香りに気づき、ピタッと足が止まる。



「ん」


ハテナマークのつかない言い方だったけど、確実に付いていると思う。
社長が不思議そうに首を傾げているから、どうやら私の表情が固まっていたらしい。


「あ、いえ」


何のコロンなんだろうと思った。
この間もわからなかったけど、妙に鼻をくすぐる。


これまではそんなことも気にせず社長の側に立っていたのかもしれない。
それとも、気づいていたけれど、意識していなかっただけなのか。


不思議だな…と思いながら社長と一緒に山へ続く小道を歩いた。
脇を流れる清流の音に耳をすませながら5分程歩いた先に、『清流そば』と書かれた看板が見えてきた。




(お蕎麦屋さん?)


普段から社長は無駄口を叩かない人なもんだから、車内でもどこへ行くとか何を食べるとか話さなかった。

半年ぶりの運転で緊張しているようにも見えたし、私も事故ったら大変とばかりに気を引き締めていたせいで、敢えて会話をしようという雰囲気も生まれなかった。


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