ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
おかげでこの看板が見えてきた時、初めて「お蕎麦屋さんへ行くんですか?」とまともに口を聞いた。


「うん。この蕎麦屋は美味しいんだ。山の湧き水で麺を打つらしくて子供の頃にもよく来ていた」


「ご家族で?」


「ああ」


最近はあまり足を運んでいなかったと言う。
社長に就任してからは忙しくて、来れなかったんだろうと勝手に判断をつけた。


木造二階建ての店舗は結構古そうだった。
国内に支社を持つオフィスの社長が食べに来るようなお店でないことは確かだと思えた。


店内の様子は外観と違ってあったかい雰囲気で、どこかこの前の店にも似ている。
社長が寛げる空間なんだろうかと、ふとそんな気がしてしまった。



「山菜は食べれるか」


座った席で抑揚のない聞き方をされた。
「か」の次に「?」が付いてると思ってもいいだろう。


「大丈夫です」


顔を見て答えると、スルッと視線を外される。


「温かい麺と冷たい麺とあるけどどうする」


「あ…あったかいので」


つい普段通りの喋り方をしてしまった。
メニューに目を向けていた社長の口元が緩み、お店の人に手を上げて呼んだ。


「山菜天ぷらと蕎麦のセットを二つ。どちらもあったかい麺で」


私の言い方を真似したのかと思ってしまった。
恥ずかしいな…と思いつつ飲んだお冷やは、とてもまろやかで美味しい味がした。


「このお水、美味しいですね!」


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