ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
目を丸くしながら言うと、社長は「そうだろう」と言って笑う。

笑い顔なんてオフィスではあまり見せたことがない。だから当然のように驚いた。


「普通に笑えるんだ」


当たり前なことを言ってしまった。
マズっ…と思い、口が滑ったことを反省した。


「す、すみません。変なことを言って」


首を窄めて謝ると、社長は怒ったふうもなく呟いた。


「別に変でもないよ」


いつもと変わらない抑揚のない言い方だったのに、なぜか声はとても明るく聞こえた。

普段の社長は喜怒哀楽が乏しくて、声が明るく聞こえるなんてことは皆無に等しい。


唖然…という言葉がピッタリだった。

よくよく考えたら、こんな感じで向かい合ってじっくりと食事をするのは今日が二度目。


この間は途中から話をする気も食べる気すらも失くなってしまった。

でも、今日はまだそんな気持ちにはならない。



「…さっき、子供の頃はよく来られていたと仰ってましたけど……」


思い出話を聞こうかと声をかければ、社長は何だかつまらなそうな顔をしている。


「今日は社長と秘書という立場は置いておかないか」


はっきりと断定するような口調で断った。


「この間も言ったが、僕は個人的に君と食事がしたいだけなんだ。丁寧語なんか使って話されると喋りにくくて困る」


なんと。
あの社長が喋りにくいと言っている。


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