ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に 2
社長は湯呑みに入ったお茶を飲んでそう言った。
私はそんな姿を見られてたんだ…と、この時初めて知って驚いた。


「蕎麦が好きならここに連れてきたら喜ぶかなと思った」


口角を上げて笑う社長の顔を見て、きゅんと胸が苦しく感じる。


「こ…心使いを頂いて……」


「ありがとう」に「ございます」を付けるべきかどうかで悩んでしまった。
途中で黙ったせいか、社長の方から「何も使ってない」と返される。


「美味しく食べてもらえたのなら連れてきた甲斐があった。悪いけど、帰りは運転を替わってくれると有難い」


恥ずかしそうにはにかんだ笑みを浮かべて頼まれた。
やっぱりかなり緊張していたんだと知り、なんだか可笑しくなってしまった。


苦笑する声を立てずに堪えているつもりだった。
でも、社長が恥ずかしそうな顔つきで、「笑うな」と言うもんだから堪えられなくなりーー



「す…すみません…」


そう言いながら声を立てて笑ってしまった。
クスクスレベルの笑いじゃなかったもんだから、さすがに社長に睨まれてしまった。



「……帰りは運転します」


笑い過ぎて溢れた涙を指で拭って応えた。

社長に睨まれたというのに、ちっとも怖いとは思えなかった。
どちらかと言うと、可愛い雰囲気のようにも思えてしまっていた。


蕎麦代の支払いは自分が誘ったからと言い、社長の奢りになった。
美味しい物と楽しい雰囲気に満たされて気分がとても良かった。


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