スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
識嶋さんが二人は知り合いなのかと声にして、優花ちゃんが「ええ」と頷いて。
私は、絞り出すように「はい」と、ようやくそれだけ声を発した。
そして、ほんの一瞬──
『すまない』
識嶋さんの唇が音を出さずに動いて。
彼は、微笑みを優花ちゃんに向けると。
「そうでしたか。西園寺さん、彼女が以前話した俺の恋人です」
私を、恋人として紹介した。
物腰が柔らかくて、品があると子だとは感じていた。
きっと育ちがいいんだろう、と。
だけど、まさか彼女が識嶋さなの縁談相手だなんて。
「荷物、ありがとうございます。これからは自分で取りに行きますので、今後は断ってくださって結構ですよ。母にも言っておきます」
他人行儀な笑みを浮かべ、識嶋さんは私へと歩み寄ると大きな手で私の肩を引き寄せる。
「美織、帰るぞ」
間近に迫った彼の香り、体温。
でも、今は鼓動も反応は鈍い。
初めて名前を呼ばれたのに、それさえも心に入ってこなくて。
「では、失礼」
識嶋さんに歩くように促されて、私は彼に肩を抱かれたままエントランスの中へと無理矢理歩みを進めた。
振り返ることもできず、彼女とまともに話すこともできないまま。
扉の向こうに、重く気まずい空気を残して。