スイート・ルーム・シェア -御曹司と溺甘同居-
「まあ……母も焦っているんだろう。父と血の繋がらない息子に跡を継がせようとな」
静かに、けれどひっそりと寂しさを含ませた声色で家の事情を明かした識嶋さん。
やっぱり、と思いながらも「血が、繋がってないんですね」と確認すれば、彼は小さく首を縦に振って。
「父は気にしてはいないようだけどな」
他に息子もいないし、と続ける。
そうか、識嶋さんに兄弟はいないのか。
それでも焦るのは、早く確実なものにしてしまいたいからなのか。
いまいち識嶋さんのお母様の真意を測れずに首を傾げていたら。
「前に、夢の話をしたな」
突然、少し前の話題を出されて頷く。
すると識嶋さんは車外に流れる夜の街並みを見つめながら薄く、どこか色気のある唇を動かして。
「俺には夢じゃないが目標がある。恩返しがしたいんだ」
父に、と最後に締め括るように言葉にした彼の瞳の奥に強い信念のようなものが見える。